元検事・郷原信郎氏が疑問視。森友裁判で国があえて認諾を選んだ「3つの理由」

 

しかし、この2つの国賠訴訟の請求認諾には、決定的に異なる点が2つある。

1つは、請求金額である。

村木氏の国賠訴訟での請求額は、約2,800万円と比較的低額で、ある意味では合理的な金額だった。

検察の起訴を問題とする国賠訴訟では、そのような金額の請求が認容される可能性は低いものの、それ程大きな金額ではなかったので、国としても、請求を認諾しやすかったといえる。

それに対して、赤木氏の国賠訴訟での請求額は1億円を超えており、従来の国賠訴訟の常識からすると、請求を認諾して請求額をそのまま国が支払うことなど、到底考えられない金額だ。それは、村木氏の国賠訴訟の事例を考慮し、国が簡単には請求を認諾できないようにするために、原告代理人が敢えて、請求額を高額にしたからだ。

特に、死亡による慰謝料の金額は、損害賠償訴訟における一般的基準があり、国を代表する立場の法務省として、それを大きく上回る金額の請求を認諾するというのは、理屈が通らない。

そういう意味では、請求を認諾することに対するハードルは、村木氏の国賠より、赤木氏の国賠の方が遥かに高かったはずだ。

もう1つは、国賠訴訟で請求を認諾する最終的な決定権限者と、その賠償責任の対象となる不法行為の当事者の省庁との関係である。

「国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律」では、「国を当事者又は参加人とする訴訟については、法務大臣が、国を代表する」とされているので(第1条)、国賠訴訟について国を代表するのは法務大臣であり、訴訟対応を担当するのは法務省(所管部局は「訟務局」)である。

つまり、国賠訴訟において、原告の主張に対して反論や反証を行うのは法務省であり、請求の認諾も、法務省内での検討を経て、最終的には法務大臣が決裁をする。

そういう意味では、検察不祥事で社会から厳しい批判を受けていた検察庁は、もともと、法務省と一体で、「法務・検察」と呼ばれ、法務省の幹部の多くは検事なのだから、法務省として検察の意向に従い村木氏の国賠訴訟の請求を認諾するというのは、ある意味では自然な流れで行われたと考えられる。

しかし、赤木氏の国賠の方は、それとは異なる。

決裁文書の改ざん問題の当事者は、財務省であり、法務省とは別個の組織だ。

本来、法務省では、国賠訴訟への対応は、原告の請求の当否や立証の可能性など、訴訟代理人としての検討結果に基づいて対応すればよいはずであり、必ずしも財務省側の「意向」に従う必要はない。

しかも、赤木氏の国賠訴訟の認諾は、上記のとおり、かなりハードルが高い。

では、なぜ、法務省は、そのようなハードルの高い赤木氏の請求を認諾したのか。法務大臣は、なぜ、そのような請求認諾を最終決裁したのか。

そこには、3つの理由が考えられる。

第一に、赤木氏の自殺の動機になった決裁文書改ざん当事者である財務省の事情だ。この場合、法務省は財務省の要請を受けて、法務大臣が請求認諾を最終決裁したことになる。

財務省としては、決裁文書の改ざんに関しては調査報告書も公表しており、それ以上に、改ざんに至った経緯や、佐川氏などの当時の財務省幹部の関与等の事実関係が明らかになるような証人尋問等が行われることを回避したいと考えた可能性はある。

第二に、内閣の意向によって請求認諾が行われた可能性だ。岸田政権側の政治的判断によって、内閣に属する法務大臣が請求認諾を決断し、法務省内の担当部局に指示したということになる。

そのような政治的判断を岸田首相が行ったとすれば、それは、決裁文書改ざんとの関係が取り沙汰された安倍元首相への配慮から、国賠訴訟で決裁文書改ざん問題の真相が明らかになることを阻止したことになる。

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