元検事・郷原信郎氏が疑問視。森友裁判で国があえて認諾を選んだ「3つの理由」

 

国家賠償訴訟が被告の国側の請求認諾で決着するというのは極めて異例だが、比較的最近の例が一つだけある。

村木厚子氏が大阪地検特捜部に逮捕・起訴された事件で、一審無罪判決が出た後にフロッピーディスクの証拠改ざんの問題が明らかになり、検察は控訴を断念、一審で無罪が確定した。

この事件で、「検察の起訴が不法だった」として村木氏が国に対して国家賠償請求訴訟を提起したのに対して、国は請求を認諾し、訴訟は決着した。

この事件は、証拠改ざん問題の発覚で、検察が国民の猛烈な批判に晒されている状況だった。

起訴した事件が無罪になった場合でも、起訴について広範な裁量権を持っている検察に国家賠償責任が認められることは極めて稀だ。

何か個人的な動機で不当な起訴を行った場合など、起訴自体が犯罪に当たるような場合でない限り、検察官の起訴が国賠法上違法となることはない、という判例があるからだ。

村木氏を逮捕・起訴した検察の不法行為を原因とする国賠訴訟も、それまでの裁判例に照らせば、村木さんが勝訴する可能性は必ずしも高くないようにも思われた。

実際に、検察は村木氏の事件の検証を行い、その報告書を、私も委員として加わった「検察の在り方検討会議」で報告しているが、そこでは、主任検察官による「証拠改ざん行為」と、それを隠蔽したとして検察自らが犯人隠避罪で起訴していた当時の大坪弘道特捜部長、佐賀元明副部長の行為については「弁解の余地なし」としており、村木氏の事件での検察官の取調べでも不当な対応があったことは否定しなかったが、大阪地検特捜部の起訴自体が不当で検察官の過失によるものとの判断は示されていなかった。

本来であれば、村木氏の国賠訴訟でも、請求棄却を求めて争っていたはずであり、その結果、従来の判例に照らせば、請求棄却となっていた可能性も十分にあったように思える。

そういう国賠訴訟を、村木氏が敢えて起こしたのは、なぜ、自分が逮捕・起訴されたのか、真相を知りたいということだった。

しかし、法務・検察としては、国賠訴訟の場で、真相解明に向けての審理が行われることは、何としても避けたかったはずだ。

証拠改ざん問題が発覚して、検察批判が吹き荒れており、「検察の在り方検討会議」等も開かれるなどして、検察問題に対して社会の関心が高まっていた時期だった。

それだけに、検察内部で検察幹部が捜査・起訴の判断に誰がどのように関わったのか、証拠改ざんやその隠蔽に誰がどのように関わったのかなど、事件の経過が国賠訴訟の場で具体的に明らかになることは絶対に避けたいと考えたはずだ。

そういう法務・検察の意向によって、請求を認諾することになり、それを法務大臣が最終決裁したのであろう。

この事件では、「請求認諾」の判断は、法務省内部で完結していたものと考えられる。

森友学園への土地売却に関する決裁文書改ざんについても、財務省の公文書・決裁文書の改ざん自体は、財務省も公式に認めているが、改ざんと赤木さんの自殺がどういう関係なのかということや、誰が赤木さんを追い込んだのかなどは、財務省の調査報告書でも十分に明らかにされていなかった。

だからこそ、赤木雅子氏は、真相解明を目的に国賠訴訟を提起したのだった。

本来であれば、国は、国賠訴訟の被告として自殺との因果関係や損害賠償額を争う余地は十分にある。

しかし、国は、請求を認諾し、事件の真相に蓋をしてしまった。

そういう意味では、財務省の決裁文書の改ざんを実行させられた赤木氏が自殺に追い込まれた経緯を明らかにしようとした赤木氏の国賠訴訟と、証拠改ざん事件での批判にさらされた検察にとっての村木氏の国賠訴訟とは、いずれも請求認諾で訴訟が決着した構図は共通していると言える。

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