ソ連邦誕生から100年の物差しで想像すべき、プーチンが主張する「大義」

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ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を報じる西側諸国のメディアは、プーチン大統領による蛮行を非難する色が濃く、善悪わかりやすい構図を作り上げました。今現在起きていることは明白な侵略でも、その背景を理解することで捉え方が変わってくると伝えるのは、ジャーナリストの高野孟さんです。2月1日掲載の記事で、2014年のロシアによるクリミア併合がなぜ起こったか、ソ連崩壊から20年余りの物差しで綴った高野さん。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』では、さらに遡ってソ連邦が誕生した100年前からの物差しを用意し、プーチンが軍事行動を決断した理由ついて想像してみることの大切さを説いています。

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※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2022年3月28日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

歴史の物差しの当て方で視点が変わる/ウクライナ情勢を理解するための「頭の体操」

ロシアのウクライナ軍事侵攻から1カ月が過ぎた。その最初の1週間ほど、例えばNHKは毎回のニュースのトップに必ずこれを取り上げ、プーチンが「突然」「一方的に」「侵略」を開始したと、同じ文言を執拗に繰り返し、彼がいかに悪逆非道の無法者であるかの印象を全国民に植え付けるのに大いに貢献した。

「侵略」には違いないとして

確かに現在のウクライナは歴とした独立国であり、その国境を踏み越えて軍隊を送り込んだロシアの行いは明明白白の侵略である。そんな国際社会の常識のイロハも無視するとは「きっとプーチンは頭がおかしくなったに違いない」というのが西側に多い解釈で、そこで狂ったような侵略者というヒトラーのイメージとの重ね合わせも説得力を増す。

それに対してプーチンが「そんな単純な話ではないんだよ」と、改めて内外にウクライナという国のそもそもの成り立ちから説明を試みたのが、2月21日の彼のビデオ・メッセージ(前号《資料1》参照)であり、さらに遡れば、21年7月の論文「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」である。
●論文:On the Historical Unity of Russians and Ukrainians – Wikisource, the free online library(クレムリン発表の英語原文のウィキソースによるミラー)

ウクライナに限らず、旧ソ連を構成した16の共和国はいずれも、1917年の革命後にレーニンとスターリンが葛藤しつつも作り上げた、言わば人工的な擬似国家である。旧ソ連全体が共産党の一党独裁を骨格とした強固な中央集権体制であるにもかかわらず、各地の民族独立派をなだめて従わせるために形ばかりの主権国家の体裁を与えるという、プーチンに言わせれば「狂気の沙汰」の奇型的な連邦制度が生まれた。

プーチンはこの中で触れてはいないが、1945年の国連創設に当たって、旧ソ連のうちロシア、ウクライナ、ベラルーシの3国が原加盟国となるというのは全く訳の分からない話で、当初旧ソ連は連邦下の16共和国を加盟させようとしたが、米国に「それなら我が国は49の州をすべて加盟させるぞ」と凄まれて、「では3国だけでいいや」と引き下がった結果だという。しかし、なぜこの3国なのかと言えば、特にロシア人が「東スラブの3兄弟」こそが旧ソ連の中核でなければならないというこだわりを抱いているからという、全く非合理的な理由しか見当たらない。出鱈目なのである。

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