習近平が台湾有事で北朝鮮に求める役割。ウクライナ侵略から得た教訓とは

2022.04.29
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長期政権を確実のものとするため、台湾併合を企図していると言われる中国の習近平総書記(国家主席)。その構図はロシアのプーチン大統領と似ているともいわれます。では、長期化するロシアのウクライナ侵攻を習氏はどのように見ているのでしょうか。政治ジャーナリストの清水克彦さんが習氏の思惑と台湾有事の際の北朝鮮の役割について考察していきます。

清水克彦(しみず・かつひこ)プロフィール
政治・教育ジャーナリスト/大妻女子大学非常勤講師。愛媛県今治市生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。京都大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得期退学。文化放送入社後、政治・外信記者。アメリカ留学後、キャスター、報道ワイド番組チーフプロデューサーなどを歴任。現在は報道デスク兼解説委員のかたわら執筆、講演活動もこなす。著書はベストセラー『頭のいい子が育つパパの習慣』(PHP文庫)、『台湾有事』『安倍政権の罠』(ともに平凡社新書)、『ラジオ記者、走る』(新潮新書)、『人生、降りた方がことがいっぱいある』(青春出版社)、『40代あなたが今やるべきこと』(中経の文庫)、『ゼレンスキー勇気の言葉100』(ワニブックス)ほか多数。

中国による早期の台湾侵攻はあるか?

「中国による台湾侵攻は今年秋」――ロシア軍によるウクライナ侵攻を受け、アメリカ・ワシントンDCでは一時期、このような見方が拡がったことがある。アメリカのポンペオ前国務長官らが所属する保守系シンクタンク、ハドソン研究所などの見立てによるものだ。

折しも、中国では、習近平総書記(国家主席)自らが、2022年3月7日、全人代(国会)の中国軍(人民解放軍)と武装警察部隊の分科会に出席して、「全軍は戦争準備の業務をしっかり行い、様々な緊急事態に対処せよ」と訓示し、海外に軍を派遣するための法整備を指示した頃の話である。

中国国内では、中国共産党の長老、朱鎔基元首相が、習近平総書記(国家主席)が今年秋以降の中国共産党大会で3期目の政権を発足させることに異を唱えた時期でもあり、「習近平総書記が、自身の3選を確実にするため、台湾に侵攻する時期を前倒しするのではないか」という見方が拡がったのだ。

筆者はこの見方を否定する。中国が台湾に侵攻、もっと言えば沖縄県の尖閣諸島にも触手を伸ばすとすれば、中国軍建軍100周年という節目を迎える2027年頃という予測は変わらない。

なぜなら。習近平総書記が「核心的利益」(どのような犠牲を払ってでも手に入れたい利益)と位置づけ、「中国の夢」とも語る台湾統一は、中国にとって負けることが許されない戦いであり、そのためには東シナ海や南シナ海での軍事力が、アメリカを大きく凌駕するまで待つと見ているからだ。

ニクソン政権で国務長官などを務めたヘンリー・A・キッシンジャーも、著書『キッシンジャー回想録 中国』(岩波書店)の中でこう述べている。

中国の指導者が、一度きりの全面衝突で決着をつけようとすることは、めったになかった。中国の理想は、相対的優位をさりげなく、間接的に、辛抱強く積み重ねることだ。

中国はロシアのウクライナ侵攻から何を学んでいるのか

では、中国は、そして習近平総書記は、長期化するロシアのウクライナ侵攻をどのように見ているのだろうか。

中国はロシアと経済的に深いつながりがある。同じようにアメリカに対抗しているプーチンは、中国からすれば、西側陣営に切り込む先兵のようなもので、簡単に潰されてしまっては困る。

一方、ウクライナとの経済的なつながりも軍需品や小麦を中心に深く、加えて、ロシアがウクライナの主権を犯した今回の戦争を容認すれば、台湾や香港、それに新疆ウイグル自治区に対する中国の主権も危うくしてしまう。「台湾は内政問題。他国は干渉するな」などと言いづらくなる。したがってウクライナの立場にも理解は示しておきたい。

だからこそ、ロシアが侵攻した当初から、ロシアの動きを「肯定も否定もしない」という立場を堅持し、国連での対ロシア制裁決議は棄権に回り、習近平国家主席自身もEU首脳とのオンライン会談で、「平和を取り戻すため積極的な役割を果たしたい」と強調しながら、実際には何もしていないのだ。

ただ、その一方で、戦況はしっかり把握させていると筆者は見る。習近平総書記は2016年の春、党や軍の幹部に、ロシアが強引に併合した2014年のクルミア紛争について詳細に調査するよう指示している。今回もそれと同じだ。特に下記の4点である。

  1. アメリカはどう動くか
  2. 国際社会のロシアへの制裁はどの程度か
  3. ロシア軍とウクライナ軍の成功例と失敗例
  4. ロシアの隣国で友好国でもあるベラルーシの役割はどれほどか

NATO加盟国ではなく個別に安全保障体制もとっていないアメリカが、ウクライナをどのように支援するかは、習近平総書記にとってもっとも気になる部分だ。

台湾とアメリカの間には、軍事支援こそ確約していないものの「台湾関係法」という法律で安全保障体制が整っているからである。

同時に、中国が台湾に侵攻した場合、ロシアの例から考えて、どの程度の制裁を受けることになるのかも計算していると推察する。

さらに、ロシア軍によるサイバー戦や情報統制の成否、そして、前線部隊への軍事物資や食料配布の失敗などもつぶさに分析しているはずだ。

とりわけ、ゼレンスキー大統領らウクライナ政府の幹部、そして一般市民に自由にSNSなどを通じ国際社会に発信を許した点、そしてウクライナとは地続きであるにもかかわらず兵站がうまくいかなかった点など、海に囲まれた台湾本島を意識しながら研究を重ねていることは間違いない。

また、中国は、ロシア軍部隊に前線基地を提供し、負傷兵の治療などにもあたったベラルーシの役割についても調べ、台湾侵攻の際、隣国の北朝鮮に何を期待できるか検討していると筆者は見る。

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