プーチン大誤算。ウクライナ侵攻を想定外の泥沼化に陥らせた「3つの事実」

 

「短期決戦」のつもりがそうは行かず?

以上のような限定的な目標であれば短期決戦で決着可能というつもりだったかもしれないが、そうは行かなかった。

1つには、ウクライナ軍は思ったより頑強だった。プーチンにはクリミア併合の際の成功体験があって、14年当時クリミアにはウクライナ正規軍2万3,000人の部隊が駐留していたが、ロシアの覆面特殊部隊の迅速な行動になす術もなく、ロシア側の「身の処し方を選んでよい」との呼びかけに応えて3,000人がウクライナ本国に戻り、残り2万人は現地除隊してロシア軍へ編入されたり、クリミアで生活の道を見つけることを望んだ。プーチンが今回、2月24日の演説でウクライナ軍人へ向かって「〔キエフの〕ネオナチ権力の犯罪的な命令に従わず、直ちに武器を置き、家に帰るよう」呼び掛けたのは、同じことがまた起きると思ったからだろうが、この8年間にウクライナ軍は米国やNATOの訓練を受け武器を供与されてそれなりに“成長”していたのだろう。軍が部隊ごと崩壊するような事態は起こらなかった。

2つには、「アゾフ大隊」をはじめ国際的な戦争浪人集団とも繋がる民兵の存在がある。アゾフ大隊は、フランスの文明批評家エマニュエル・トッドが『文藝春秋』5月号の巻頭論文でも触れていたように、「マリウポリの街が“見せしめ”のように攻撃されているのは……アゾフ海に面した戦略的要衝というだけでなく、ネオナチの極右勢力『アゾフ大隊』の発祥地だから。プーチンの言う『非ナチ化』は、このアゾフ大隊を叩き潰すという意味」である。単に発祥地というだけでなく今もその中心拠点で、実際、この数週間、マリウポリの状況について説明するためNHKニュースに出てくるのは決まってアゾフ大隊の司令官で、この地にはウクライナ正規軍の司令官など不在であることが分かる。

アゾフ大隊は、本誌4月18日付No.1150でも触れたように、14年の反露派の武力革命の後に生まれた民兵組織の有力な1つで、内外の白人人種主義者、極右、ユダヤ過激派、ネオナチなど雑多な集団のごた混ぜだった。後にウクライナの軍制に組み入れたと言っても形ばかりで、そこへ米国人の元軍人やCIA要員が指導教官などとして入り込んで戦闘の指揮をとるなど、実質的に米国が直接関与する隠された回路となってきた。

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アゾフ大隊の実態については、岩上安身のIWJが14年当時から詳しく報じてきた(最近の一例は「米国主導で大量の武器が送られるウクライナで育つ外国人戦闘員が戦後『白人テロ』拡大の危険を招く!第2弾~岩上安身によるインタビュー」)。また、アゾフ大隊に限らずウクライナの戦闘組織に3月上旬までだけで4,000人もの米国人が参加していることは朝日電子版の「グローブ」も報じている。

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プーチンは、アゾフ大隊を「ネオナチ」と呼んでこの壊滅を狙い定めていたものの、それに限らず米欧のありとあらゆるならず者の軍事集団がウクライナに集まってウクライナ軍を支えている実態とその暴虐性ついては、実は軽視していた。そのため次第に深みに嵌って長期化を余儀なくされたのではないか。

3つには、米国が偵察衛星や電子探知によるロシア軍の動向をキエフ側に伝えて情報面から参戦していることを軽視していた。それなしには黒海艦隊の旗艦「モスクワ」が簡単に撃沈されることなどあり得ない。

こうして、一見すると戦略的に緻密であるように見えながら、細部に至るとずさん極まりなく、主観的な判断に頼りすぎて事を急いだのがプーチンの失敗の原因ではないか。

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