日本人が抱く外国人へのステレオタイプが、無意識に日常で多くの差別を生んでいます。悪気はなかったとしても、言われた側が傷ついてしまうことは多いようです。中国出身で日本在住の作家として活動する黄文葦さんは、メルマガ『黄文葦の日中楽話』の中で、自身が遭遇した差別について語っています。
この記事の著者・黄文葦さんのメルマガ
「あなたは中国人でしょう?」 さりげない差別とは
前回のメルマガで、当方が金沢21世紀美術館で遭遇した「事件」について書く予定だと予告した。「事件」と言ったら、ちょっと大騒ぎかもしれない。ただし、確かに、考えさせられたことである。
5月28日の午後、当方は金沢21世紀美術館を訪れた。金沢を訪れたら、必ずと言っていいほど訪れるのが金沢21世紀美術館。この美術館は実にユニークで、モダンでアバンギャルドな、さまざまなカタチの芸術を展示している。
その日、美術館では韓国のアーティストの映像作品の展示が行われていた。「ムン・キョンウォン&チョン・ジュンホ:どこにもない場所のこと」といい、とても新鮮な刺激を受けた。もう一つの「コレクション展 うつわ」も観賞した。
「うつわ」を観賞する時のこと。大きなガラス枠に入った芸術品を鑑賞していると、体がガラスに近づき、指にはめた指輪とガラスカバーがわずかに接触したことに気づかなかった。その時、5メートルほど離れたところにいた中年の女性スタッフが近づいてきて、「あなたの手がガラスに触れて音が出たから、しばらくここにまっていて、確認する必要がある」と真剣な表情で当方に言った。
ちょっと戸惑ったのが、言われたとおりにしてその場で待つことに。しばらくすると、管理職らしき中年の男性が、当方に事情に聴いた後、無表情で「あなたは中国人でしょう?」と言い出した。
この発言には驚いた。指輪がガラスに当たったのは、まったく意図的なものではなく、おそらくは多くの人に起こりうることで、国籍は関係ないように思えたのだろう。当方は、「そうです。中国人出身ですが、なぜこんなことを聞くのですか?」と答えたが、相手は二度と口をきかなかった。
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その間、スタッフがガラスをチェックしていたようで、数分後に「ガラスに問題はないので、もう大丈夫ですよ」と言われた。「ご迷惑をおかけしました」と、当方は謝った後、ほっと一息ついてその場を離れた。しかし、「あなたは中国人でしょう?」という言葉を、私はしばらく考え込んでしまった。