「中国が技術を盗む」という“いまさら”批判の裏側にある本当の意図

 

現在のように中国市場が巨大となり、また「日本がやらないならドイツの企業に」と中国側からプレッシャーをかけられる状況では妥協もせざるを得ないだろう。実際、90年代の中ごろから日本企業はこうしたギリギリの駆け引きを繰り返してきた。

苦渋の選択を迫られながらも圧倒的に多くの日本企業が中国から離れなかったのは、偏に儲かったからだ。かつて三洋電機とハイアールとの間で発生したトラブルを現地で取材していたとき、ある日本の経営者からこんなことを言われて納得したことがある。

「いくら危険だから行くなといわれても企業は儲かれば行く。逆にどんな良い国だと言われても儲からないなら行かない」

従来からあるこんな企業経営者の決断に、いま新たな要素が加わり、状況をさらに複雑にしている。そのキーワードが当節流行の「経済安全保障」だ。

読売新聞の記事も半分は「経済安保」の問題として書かれていると思われるが、その視点でみれば中国の狙いは技術だけではなくデータにも向けられていることが分る。データをめぐる動きであれば見方はさらに複雑だ。

昨年3月、中国政府はテスラ車の車載カメラに対する警戒から一部の地域への乗り入れを規制する動きを見せた。これは安全保障上の警戒と同時に商業的な理由が考えられる。中国で手に入れたデータをきちんと自国利益とつなげてゆこうという考え方だ。

さらに政治的な意味も見落とせない。とくに米中対立の視点から中国が見据えているのはアメリカへの対抗手段だ。これまでアメリカは、「安全保障上の懸念」を理由に多くの中国企業を排除してきた。なかでも、ファーウェイの米政府機関からの締め出しは最初の一歩だった。

トランプ政権の発動した制裁関税に対し中国も制裁関税で応じたように「経済安保」でも対抗する姿勢を見せ始めたと考えるのが自然だ。アメリカが「安全保障上の懸念」というのであれば中国にも同じ警戒感があるという理屈だ。

ファーウェイのバックドア疑惑では何の根拠も示されないまま同社は排除された。この問題で中国が反発したのは、経済を犠牲にする政治パフォーマンスに対してだ。事実、制裁関税によって損失を被ったのは中国よりもむしろアメリカの消費者であった。そしていま、インフレに苦しむアメリカは、その解消のために対中制裁関税の解除へと動き始めている。制裁関税の発動でアメリカはいったい何を得たのだろうか。(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2022年7月10日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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