ネスレ“次”の模索が導いた「ネスカフェアンバサダー」という大ヒット

2022.07.13
 

バリュー・イノベーションと手を携えることの重要性

テクノロジー・イノベーションは重要だが、それだけでは十分な市場獲得には至らないことがある。テクノロジー・イノベーションは、バリュー・イノベーションと手を携えることで市場獲得の可能性を拡大する。

テクノロジー・イノベーションとバリュー・イノベーションが連携することの重要性については、ネスカフェアンバサダーにおいても変わりはない。ネスカフェアンバサダーというサービス・プログラムは、そもそもネスカフェ・ゴールドブレンド・バリスタの開発というテクノロジー・イノベーションをネスレ日本が成し遂げていなければ、生まれることはなかった。その一方で、テクノロジー・イノベーションとは別の取り組み ― すなわち価格政策やチャネル政策などのマーケティング・サイドでの新しい仕組みの創出 ― を進めたことから、ネスカフェアンバサダーは生まれている。

事業の成長を加速する収益源の多様化

バリスタというマシンは、ネスレ日本だけではなく、スイスのネスレ本社が自社内に蓄積してきたコーヒーの豆やマシンなどに関する知的リソースから生まれた。このマシンは、2000年代以降の日本のコーヒー市場の戦略的課題を見据えたうえでネスレ日本が主導した知の探求の成果である。

バリスタは、優れたマシンであると同時に、販売面でも一定の成功をおさめる。2010年に発売されたバリスタは、国内で最も販売数の多いコーヒーマシンとなる。

ネスレ日本は、このヒットに安住しなかった。「こんなことで喜んでいてはダメだ」と、人口減少社会への強い危機感から、「次」の模索を続ける。

この模索のなかから、ネスカフェアンバサダーのセービス提供がはじまり、バリスタの収益にさらなる柱が生まれる。職場でネスカフェアンバサダーを使った利用者が、バリスタを気に入り、家庭用に購入するといった流れも生まれる。

当初のバリスタのマーケティングが採用していたのは、間接チャネルによるマシンとカートリッジの販売から対価を得る、プロダクト販売モデルだった。そこにネスカフェアンバサダーという価格政策とチャネル政策のイノベーションによる価値獲得が加わり、職場での新しいコーヒーの楽しみ方が一気に広がる価値創造を果たす。

企業がテクノロジー・イノベーションの果実をより大きなものにするには、自社に利益をもたらす収益源を複数展開することに目をむけるべきである。ネスカフェアンバサダーは、この収益源の多様化という課題にこたえるものだった。

image by: Shutterstock.com

栗木契

プロフィール栗木契くりきけい
神戸大学大学院経営学研究科教授。1966年、米・フィラデルフィア生まれ。97年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。博士(商学)。2012年より神戸大学大学院経営学研究科教授。専門はマーケティング戦略。著書に『明日は、ビジョンで拓かれる』『マーケティング・リフレーミング』(ともに共編著)、『マーケティング・コンセプトを問い直す』などがある。

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