現実的にはあり得ない。日米の「台湾有事論」が根本的に誤っている理由

 

右派・保守派の「台湾有事論」の粗雑

日本や米国では、上掲の米海軍大将を筆頭に、ロシアがあのように「突然、一方的に隣国を侵略」したのだから、中国も同じように台湾を武力侵攻するに違いなく、しかもその時期は迫っている、といった論調が横行している。しかし、本誌が繰り返し述べて来たように、まずロシアのウクライナ侵攻自体が決して「突然かつ一方的」なものではないし、また仮にそうであったとしてもプーチンと習近平が必ず同じような行動パターンを採るとは限らない。そのような言説は、「敵に事欠く」米国政府とそれを操る軍産複合体が、ロシアと中国を「元・現の共産党独裁国家」という具合に一括りにして「敵陣営」の幻像をデッチ上げ、その脅威を誇大に描き上げようとする冷戦ノスタルジア的な心理操作プロパガンダから生まれた、粗雑極まりない議論で、こんなものに騙されてはいけない。この論考の著者=文谷はその辺をきちんと見抜いた上で、台湾有事論の第1条が「台湾有事は台湾独立に際してのみ生じる」ことの確認でなければならないことを、正しく指摘している。彼は言うことに耳を傾けよう。

▼これまで有事論を主導してきた右派メディア、保守メディアは「中国には侵略的傾向がある。だから台湾を侵略する」と言うだけである。そこに「台湾への関与を増やすべき」「日米同盟を強化すべき」「防衛費を増やすべき」といった伝来の右派的・保守的主張を乗せるだけだ。

▼有事の様相の提示はなく、あってもおざなり。「まずは中国は戦略爆撃を含む航空攻撃を仕掛ける。そして海軍力で海上攻撃や封鎖を仕掛ける。それでも屈服しなければ台湾に上陸する。もしかすれば島嶼に上陸するかもしれない」といった空虚な内容で、しかも台湾有事では考え難い展開である。あるいは、言い古された斬首作戦――空挺部隊ほかによる台北への奇襲攻撃が持ち出される場合もある。これは、以前に沖縄への海兵隊配置やオスプレイ配備〔の目的を問われた際に苦し紛れの〕牽強付会で持ち出された話でもある。

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