イギリスのジョンソン首相、イタリアのドラギ首相とヨーロッパでは今月だけで2人の首相が辞任に追い込まれました。西側、NATOの中心国であり、G7のメンバーという2つの大国のトップが変わるということは大きな出来事。取り巻く情勢が一気に変化してもおかしくはありません。そこで今回は、現在のヨーロッパ全体の政治経済の混乱と、それが招く危機の可能性について見ていきます。
欧州の問題点
まず欧州全体についてですが、現在の欧州の最大の問題は、アメリカと同様、インフレです。
ユーロ圏では消費者物価指数(CPI)が昨年同月比で5月は8.1%、6月は8.6%と上昇する一方で、為替もついに対ドル相場で1ユーロ=1ドルを割り込むほど(いわゆるパリティー割れ)ユーロ安が進んでいます。
この水準は、昨年同月から比べれば2割近く下落していることになりますので、日本と同様のいわゆる「輸入インフレ」が更に加速する懸念が強まって、21日、ついに欧州中央銀行(ECB)が、0.5ポイントという大幅な利上げに踏み切りました。
このECBの利上げは11年振りで、これにより2014年から8年間続いたマイナス金利政策も終了することになります。
ECBが利上げしてこなかった理由
アメリカのFRBとは対照的にECBはずっと利上げをせずに来ましたが、ECBが利上げをしてこなかった理由は、勿論景気減速への懸念はありますが、もう一つはユーロ圏特有の問題である、イタリアやスペイン、ギリシャなどの南欧諸国が抱える財政破綻リスクの問題です。
彼らは莫大な債務を抱えていますので、利上げで借入コストが上昇すれば大きな打撃を受けますし、金利が上がれば国債価格が下がって利回りが上がる、つまり国債の利払い費用が増大するため、南欧諸国の政府財政はますます悪化します。
そのため、アメリカの様に簡単に利上げがしづらいベースにある中で、今回利上げを決定したということは、そこまで今の欧州のインフレが深刻だと言うことになります。
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ユーロ圏の財政バランスとプーチン
そんな中で、イタリアの財政改革、財政健全化に大きく期待されていたマリオ・ドラギ首相が辞任しました。
9月下旬に総選挙が実施される予定ですが、新政権がどの様な政権になるか予想しづらい中で、健全な財政を目指すのか、放漫財政的な政権となるのか、その時にECBがどの様な手法でイタリアを含むユーロ圏の財政バランスを取っていくのかが、このエネルギー高騰、物価高騰という大きな問題を抱える欧州の安定に於いて重要な課題となってくると思います。
そしてこの動き(西側の混乱)を最も歓迎しているのは、ロシアのプーチン大統領です。
そもそも経済的に関係の深いイタリアで、ドラギ前首相はウクライナ支援を明確にし、アメリカ中心の対ロ制裁に積極的に協力してきました。
今国民の支持率が一番高い政党は野党の「イタリアの同胞」というファシスト党の流れをくむ極右政党で、党首のメローニ氏が政権を取る可能性があり、そして連立を組むであろう他の政党党首、例えば「フォルツァ・イタリア」を率いるベルルスコーニ氏、そして「同盟」のサルビーニ氏は、ロシアと強い関係を持っています。
そのため、民主主義陣営の対ロ制裁に影響が出る可能性が高いと見る向きが強くなっているのです。