アメリカバイデン大統領が7月13日から16日まで中東を初訪問しましたが、今回はこの訪問に凝縮されるアメリカの中東に於ける目下の課題、イラン、イスラエル、そしてサウジアラビアについてお話をしたいと思います。
アメリカの中東における注力ポイントとは
冷戦以降、中東で様々な関与を行ってきたアメリカですが、その中でもアメリカが最も注力してきたのは、イランとイスラエルです。
イランについては、最大の反米勢力の一つをどう排除していくか、逆にイスラエルに対しては、中東最大の同盟国であり、どう支援していくか。この2点が大きな政策の流れだった訳ですが、オバマ政権、トランプ政権、バイデン政権は、それぞれ異なった手法を取ってきて、そこに中国、ロシアとのパワーバランスの変化を経て、今のアメリカの中東に於ける政策優先順位があります。
その中でのバイデン大統領の今回の中東訪問ですが、目的は大きく3つです。
1つ目は、中東の最大同盟国のイスラエルとの関係継続。そして2つ目は、イランの核開発が今加速していますが、これに対して、イスラエルとアラブ諸国の関係を強化した上で軍事連携を図り、イランへの抑止力を最大化していくこと。そして3つ目が、このチャンネルでもお話をした、サウジアラビアとの関係修復です。
バイデンの中東訪問に隠された3つの目的
まず1つ目のイスラエルですが、今回ラピド首相との会談で、イランの核兵器保有を認めないとする共同宣言と、イスラエルテレビ局のインタビューで、イランに対して武力行使もいとわないとの発言をしました。
これは、オバマ大統領が始めて、トランプ大統領が離脱したイラン核合意を復活させようとバイデン政権が画策していましたが、明確に手詰まりになって来ている一方で、この核合意復活に反対していたイスラエルへの歩み寄りを含めての共同宣言だと思います。
ヒズボラやハマス、ガザ地区のイスラム聖戦機構に武器や資金を提供しているイランはイスラエルにとって最大の敵国です。ここでアメリカにイランが守るかどうかわからない核合意でまた経済制裁が緩む結果、先ほど述べた敵対勢力が力を持つことを防ぎたいイスラエルにとっては意義があったと思います。
詳細は割愛しますが、中東版クアッドと呼ばれている「I2U2」、イスラエル、アメリカ、インド、UAEの4か国でオンライン会合も行っています。
そして2つ目のアラブ諸国との連携ですが、中東に於いてウクライナと同じ轍は踏まない為にも、イラン包囲網をきちんと構築することが現状アメリカの中東での課題であり、ある意味イスラエルやサウジとの関係強化或いは修復は、その方法論と言っても過言ではありません。
16日にサウジアラビア、UAE、バーレーン、オマーン、カタール、クウェートのGCC6か国に、エジプト、イラク、ヨルダンを加えた9か国との首脳会議を行いましたが、ここでは、米国主導の枠組みの中でのパートナーシップの強化とイスラエルまでを含めて、ミサイル防衛システムを統合する構想を話し合いました。
今回改めて、バイデン大統領は、イスラエルとアラブ諸国を軍事的に連携させて、イラン包囲網を築きたい、という戦略を明確にした訳ですが、アラブ諸国の中には、反イスラエルの国もあり、また、イランと表立って対立したくない国もありますので、これはまさに今後の進捗に期待、というところかと思います。
そして最後にサウジです。今回初めてバイデン大統領はムハンマド皇太子と会った訳ですが、ムハンマド皇太子からすれば、ようやくアメリカが自分を認めたと言うことでその価値は大きかったと思います。
アメリカからすれば、人権問題上ムハンマド皇太子を無視してきたバイデン大統領が、国内の深刻なインフレ問題解決の為に、根本指針をひっくり返してまで会いに行くことは批判も大きく、次回8月3日のOPECプラスの会合で期待通りの増産となるかどうかもわかりません(個人的には大した増産幅にはならないと予想しています)。
が、今はインフレ対策も重要ですが、それよりもサウジが再び親米国となって、イスラエルとの関係を良好にし、対イラン包囲網を盤石に出来るならば、その方がバイデン政権に於いては価値が高いのでは、と思います。
今後の中東情勢に、引き続き注目していきたいと思います。
出典:メルマガ【今アメリカで起こっている話題を紹介】欧米ビジネス政治経済研究所
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