森 「3人が東京で、私と妹が島根に残りました。母は行ったり来たりしていましたが、幼い娘2人に母親不在のような形では不憫だと思ったのでしょう。小学校4年生の時、私たち2人も上京しました」
鈴木 「それではお父様お1人が島根に残られたわけですか。いまで言うところの逆単身赴任」
森 「医者として地元への責任がありましたからね。いまでは小学校4年生まででも田舎で育ったことは、とてもよかったと思っています。外からの刺激がないから、割とピュアに育っていきましたね。
水もきれいでしたし、緑もたくさんあって、何より四季の移り変わりが素晴らしかった。蝶はハナヱ・モリデザインの象徴と言われますが、美しい蝶を描けるのも、子どもの頃、田舎でたくさんの蝶を見てきたからだと思っています」
鈴木 「心理学では、人生で自分が大切だと思えるものは5歳までにどういう環境で育ったかで影響を受けると言います。そういう意味でも、森先生は非常に恵まれた環境で、素晴らしい影響を受けてお育ちになられたんですね。
他に人格形成で影響を受けた方はいらっしゃいますか。特にこういう人のこの言葉に影響を受けられたとか」
森 「そうですねぇ……。女学校の時、校長先生が『日々新』という言葉を教えてくださいました。
鈴木 「中国古典の『大学』に出てくる言葉ですね」
森 「その時はなんか野暮ったい言葉のように感じましたが、いまはとても大事にしています。
ファッションデザイナーという職業は、少しばかり時代を先取りしながらつくっていく仕事ですからね。また、もちろん仕事もそうですが、精神面でも毎日をリフレッシュしながら自分を探すという意味で、いい言葉だと思うようになりました」
鈴木 「森先生のように創造というか、クリエーティブなお仕事をされる方にはこれ以上にないというくらいピッタリの言葉ですね」
森 「確かに時代を先取りする仕事ですが、あまり先取りしすぎてもダメなんですね。人間がどんなふうに生きていくかということを、少しばかり先取りして形にする。だから本当に『日々新』な仕事です」
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