中心位置にこだわるな。何が日本の「台風報道」をダメにしているのか?

 

3)腹が立つほど健忘症だということもあります。今回は中心気圧が低く、強風被害の可能性が大きいわけです。だったら、すぐに想起されるのが2019年の房総における台風15号の被害です。多くの家の屋根が破壊され、例えばゴルフ練習場の倒壊など多くの被害が出ました。

今回も、鹿児島市でクレーンが折れるなどの問題が起きていますが、もっともっと過去の被害に触れながら注意喚起することは必要と思います。豪雨対策という面では、今回はダムの緊急放流が非常に多く発生しています。これも、2018年の西日本豪雨における愛媛県の肱川で起きた悲劇が教訓になっていると思います。

この緊急放流の問題は、この肱川の悲劇とともに語る必要があると思います。球磨川の問題もそうですが、現在進行形の台風被害に関して、少ない情報を繰り返し伝えるだけではなく、過去の事例を交えて、「この種類の被害を防ぐには」という経験に根ざした警告をすべきと思います。

過去というと、やれ「室戸台風」とか「伊勢湾台風」などと、昭和の大昔の話を持ち出すのも違和感があります。そういうことではなくて、数年前の具体的な記憶をしっかり共有し、防災に役立てていただきたいのです。

4)中心位置にこだわるなという点も大事です。台風被害というと、すぐに「いつ上陸」だとか「中心はどこ」といった報道が繰り返されます。特に、一旦海上に出た台風の中心が、どこか陸地に上がると「何々市付近に再上陸」だとかなんとか、大騒ぎをするわけです。

もちろん、中心位置で台風全体の位置や進路を理解できるということはあります。ですが、中心のことばかりを気にしていると、離れた場所での強風被害、そして何よりも豪雨被害に対する警戒感が薄れてしまいます。また、一番危険なのは台風の進路の東側ということもあります。中心そのものは台風の目で、晴れていたりということもあるでしょう。中心中心と騒ぐのは少し減らして、もっと広域での注意喚起を増やすべきと思います。

5)雨雲レーダーの活用をもっと増やすべきです。そもそも、雨雲レーダーを見ていて、現在時刻から前後を動画で動かしてみていれば、線状降水帯の恐ろしさなどは、誰にでもわかるはずです。

少なくとも、豪雨災害への注意喚起をするのであれば、TVは特にローカル放送のレベルで、精緻な雨雲レーダーをリアルタイムで見せて注意喚起するのが、一番手っ取り早いと思います。

ネットには、雨雲レーダーのかなりリアルタイムで精緻なものが、気象庁からも、民間からも提供されています。これを見た都会の子どもたちが、地方の老親にワーニングを送るというだけでなく、高齢者の全体に、雨雲レーダーの最新情報が伝わる仕組みを、メディアも、地方自治体も工夫すべきです。

その他にも、政治家の値段の高そうな「作業服」はいい加減にしろとか、竜巻認定があるまでは表現を自粛して「突風」と言うとか、「命を守る」にしては、不真面目で官僚主義的な「?」がたくさんあります。

コンビニの計画休業の問題も、もっと事前予告をしてタイミングを繰り上げるとか、店員の負荷を下げて、社会的な災害物資供給の責任を果たす工夫ができるはずです。

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