中心位置にこだわるな。何が日本の「台風報道」をダメにしているのか?

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強い勢力を保ったまま日本列島を縦断し、各地に大きな被害をもたらした台風14号。テレビ各局は長時間を割いて台風情報を伝え続けましたが、その報じ方については改善すべき点が多いようです。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では著者で米国在住作家の冷泉彰彦さんが、台風14号に関する報道を見て感じたという違和感を5つ指摘。それぞれについて詳細に検討するとともに、その解決法を提示しています。

※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2022年9月20日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

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台風報道に見る、5つの違和感

台風14号の威力は恐ろしいほどで、とにかく上がる寸前まで915hpaとか、上がっても930とか、延々と陸上を移動してもまだ980だとか、モンスターだとしか言いようがありません。そうなのですが、遠くから日本の報道を見ていると、違和感ばかりが目に付きます。5点、議論したいと思います。

1)報道に切迫感がありません。とにかく、大した風も吹いていないのに、ホテルの部屋から「安全なところからお伝えしています」などと断りを入れて生中継するのは止めていただきたいです。

昭和の昔がいいとは言いませんが、報道関係者には危機回避のノウハウは残っているのですから、多少キツくても雨に濡れ、風に吹かれて「視聴者の危機感を喚起する」映像を届けて欲しいと思います。

働き方改革の問題があったり、そもそもメディアが資金力を失っている、あるいは雲仙岳の悲惨な事故以来は厳しい事情があるのはわかります。ですが、仮にそうであっても、もっとリアルな映像で危機感を喚起する、そのためには無人ドローンでも、遠隔のカメラでもいいわけで、とにかく「百聞は一見にしかず」なのですから、工夫していただきたいと思います。

大きな理由としては、「マスゴミが危険を冒して報道すると、社会に迷惑をかける」という種類の理不尽な視聴者からのカスハラで、これで疲弊している面はあると思います。ですが、これも信念があればバッサリできるはずです。

2)昔から気になっているのですが、「命を守る行動を」という言い方には違和感があります。とにかく、そんな日本語はないし、そもそも人間には危機回避本能があるのですが、その本能を刺激「しない」言葉だと思うからです。自分の命に危険が迫るのは「怖い」、という感覚を刺激しないのです。

どういうことかというと、危険が切迫していて命に関わるのだが、「お前はそこまでの切迫感を感じていないだろう」という、見下した上から目線が薄っすらと感じられる一方で、それに「迷惑だから死なないでくれ」的な身勝手さが乗っかっているからです。そのくせ、初期にはあった「違和感が刺激になる」効果が消えて、日本語に特に多くある「強く言えば言うほど陳腐化が加速する」という現象も出てきているようです。

そういえば、「土砂崩れ」を「土砂災害」と言い換えているのも気に入りません。どう考えても「土砂崩れ」のほうが怖いので、注意喚起になるはずです。もしかしたら、過去の被災経験者のPTSDなどを配慮する必要があるのかもしれませんが、それで表現をソフトにして、逃げ遅れた人が死んだら元も子もありません。

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