一言でいえば、黒川弘務という法務官僚は、法を枉(おしま)げ、私利私欲に走る「奸吏」に他ならない。だが、政治家からすれば、それほどありがたい役人はいない。安倍元首相をはじめ、政治家たちが重宝するのも理解できる。
「麻雀賭博」で失脚した黒川氏は、その後も隠然と影響力を残し続け、法務省に小さくない影響力を保持していた。鳩山邦夫法務大臣は鬼籍に入ったが、彼には安倍元首相がいた。また、菅義偉官房長官も首相に就任した。よって、省内でも黒川氏はまだ安泰だと言われていた。
だが、菅義偉首相が退陣してから少しずつ風向きが変わりだした。とくに、今年6月末の検察人事は、黒川氏の影響力を削ぐためともいわれていた。7月8日、安倍元首相が銃殺されると、彼を後見する者はいなくなった。
「犯罪の摘発は困難を極めているが、それにくじけず、本当に悪いやつが誰かを見極める捜査を検察官に期待している」(落合義和東京高検検事長就任会見)
元特捜副部長で、激しい取り調べで有名な落合義和氏が、黒川氏の長く務めていた高検検事長に就任するや、五輪汚職の扉が開いたのだ。これは偶然だろうか。
甲斐検事総長、落合高検検事長、市川特捜部長に妥協する様子はみえない。いまや、世論からの応援の声で庁内はかつてないほど熱気に包まれているという。検察官といえども人の子、国民からの声援がうれしくないはずはない。
仮に、元首相の逮捕となれば、あの田中角栄元首相以来46年ぶりのこととなる。果たして、検察の反撃はどこまで本気なのだろうか?
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image by: 首相官邸
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