ウクライナに対して武力侵攻したウラジミール・プーチン大統領の行為を受け入れられないのは世界が共有する認識だろう。しかし、それに対して各国がどのように対応するのかは、ウクライナとの関係や地理的な条件、またはロシアへの恐怖心などで濃淡が別れるのも自然なことだ。また、それよりも大きいのが経済的な条件である。なかでも、エネルギーや食糧をロシアに大きく依存してきたヨーロッパにとっての思いは複雑だ。
ヨーロッパの各国国内には「経済的な逆風は我慢してウクライナ支援をすべき」という主張と「自分の生活を守ることを優先すべき」との主張がぶつかっている。交錯する思惑のなかで難しいかじ取りを迫られるのは各国の政治が抱える悩みである。
なかでも目立つのはドイツの迷走だ。同国で明らかなのは、中ロに対する姿勢をめぐり、首相と他の閣僚との間に明らかにスタンスの違いが生じていることだ。例えば、10月11日、ベルリン機械工業サミットで演説したオラフ・ショルツ首相は、グローバル化の可能性に触れ、中国との関係を意識して「サプライチェーンの寸断には断固として反対する。それは明らかに誤った道だ」と述べた。
しかし、その直後に何とドイツ外相のアンナレーナ・ベアボックが「ドイツ経済は過度に中国との貿易に依存すべきではない」とサプライチェーンを調整する必要性に言及しているのである。
同じタイミングで欧州連合(EU)もフォンデアライアン委員長がレアアースなどで対中依存の見直しに言及しているので、欧州全体の流れと見ることもできるが、ドイツ国内の事情を忘れてはならない。それは緑の党とドイツ社会民主党の政策の違いからくる齟齬だ。事実、ベアボックと同じくショルツ政権で副首相及び経済・気候保護大臣を務めるロベルト・ハーベックも「脱中国」を公然と口にする。ハーベックも緑の党だ。
ハーベックはG7(先進7カ国)貿易大臣会合でロイター通信のインタビューに応じ、中国産の原材料、バッテリー、半導体への依存度を減らすために「新たな対中通商政策に取り組んでいる」と語っている。
中ロを一括りに厳しい姿勢で臨むのが緑の党の姿勢だ。それに対しショルツ首相が現実的な調整を迫られるという図式だ。この二者の立場は、アメリカの政界と経済界の立場の違いにも似ていて、おそらく多くの国で見られるねじれ現象だ。政治が経済成長にとっての大きな逆風になる時代である。
ドイツの経済界は、メルケル後に誕生した連立政権から、おそらく政治の逆風が吹くとを予測し、早くから「脱中国」のマイナス影響を明らかにし、けん制する動きを続けてきた。代表的なのは今年8月、ミュンヘンに本部を置くIfo経済研究所だ。同研究所は、もしドイツと中国の間に経済戦争が起きれば、という仮定で損失のシミュレーションを行っていて、その損失を「イギリスのEU離脱の6倍にあたる」と算出。衝撃的な結論を導き出している──
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2022年10月16日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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