EV市場で周回遅れのトヨタ、ようやく気づいた「テスラの優位性」

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トヨタが電気自動車の開発において、2021年末に発表したロードマップを大きく見直す検討をしているとロイターが報じました。EV市場におけるトヨタは「周回遅れ」「戦えない」と厳しい指摘をしてきたメルマガ『週刊 Life is beautiful』著者で「Windows95を設計した日本人」として知られる世界的エンジニアの中島聡さんは、この報道をどう見るのでしょうか。中島さんは、製造過程でイノベーションを進めたテスラの優位性にようやく気づいたことで、“討ち死に”を免れることはできても「かなりヤバい状況」と悲観しています。

プロフィール中島聡なかじま・さとし
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。

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トヨタ、EV戦略見直し検討 クラウンなど開発一時停止=関係者 | Reuters

トヨタ自動車が電気自動車(EV)事業を巡り、戦略の修正を検討していることが分かった。基本設計のプラットフォーム(車台)も見直しの対象に含めており、2030年までにEV30車種をそろえるとしていた従来の計画の一部は既にいったん止めた。想定以上の速度でEV市場が拡大し、専業の米テスラがすでに黒字化を達成する中、より競争力のある車両を開発する必要があると判断した。

とのことです。

トヨタ自動車は、長年、自動車のプラットフォーム化(=部品や製造過程の標準化)を進めて来ており(参照:トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー – Wikipedia)、EVに関してもこのプラットフォームを適用出来ると考えていたところ、いざ実際に製造をスタートしたところ、これではTeslaや中国メーカーとは戦えない、と認識したのだと私は解釈しています。

トヨタ自動車は、「ハイブリッド車から水素自動車へのスムーズなシフト」を前提として長年戦略を建ててきたため、「立ち上がるはずがなかったEV市場」がTesla一社の躍進で立ち上がってしまったことにより、戦略を根本から見直さなければならない事態に陥りました。

その危機的な状況は、私がXevoを通じてトヨタ自動車とビジネスをしていた2019年の時点でも私には明らかでしたが、トヨタの経営陣からはその危機感は全く伝わって来ませんでした。私が知る限りでは、トヨタ自動車が本気でEVの開発を始めたのは2020年ごろだと思います。

そのアプローチは「可能な限り既存のプラットフォームを活かしつつ、ハイブリッド車と両立しながら(=ハイブリッド車から市場を奪わない形で)」という保守的なもので、だからこそ「電気自動車(Electric Vehicle)」ではなく「電動車(Electrified Vehicle)」というハイブリッド車も含む形での穏やかなシフトを目指したのです。

それに対し、EV一本で攻めているTeslaは、既にEV市場で実績を上げているだけでなく、さらに、4680という新しいバッテリーやギガプレス(巨大なプレスマシン)で、(トヨタ自動車が得意なはずに)製造過程でイノベーションを進めており、トヨタ自動車に限らず、他のメーカーが「コスト的に対抗出来ない」ところにまで進化してしまっているのです。

製造コストの差は、そのまま「粗利の差」に直結するため、今のプラットフォームのままで戦っても、一台あたりから上がる粗利益に大きな差が生じてしまうため、全く勝負にならないのです。

別の言い方をすれば、iPhoneというブランド力を持つAppleが、ライバルよりも圧倒的に安くスマートフォンを製造できる技術を握ってしまったような状況なのです。

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