習近平は大喜び。新体制の中国を独ショルツ首相がいち早く訪問したワケ

 

報道には、西側先進国が今後どう中国と付き合ってゆくのか、一つの流れをつくる訪問だとして、警戒するニュアンスが含まれていた。これを皮切りに中国との「接近」という流れが生まれないよう、それを阻止しようとする動きも活発化した。

その最大勢力がアメリカであるのは言を俟たないが、今回、意外なところからショルツに向けた矢が放たれた。誰あろう、同じ閣内のアナレーナ・ベアボック外相だ。

外相はG7に出席する前にウズベキスタンを訪れ、首都タシケントでドイツの対中外交政策の変更をショルツに向け公然と求めている。「変更」の意味は人権や民主主義を重視し、中国への依存を減らすという政策だ。

首相が訪問するタイミングで、その訪問国を批判する外相というのも寡聞だ。タガが外れた印象さえ受ける。それだけ中国をめぐる問題は根が深いとも解釈できるが、一方で対立を制御できない国内政治の事情もにじむ。いわゆるアメリカの現状と重なる民主主義の制度疲労だ。

ドイツは現在、中道左派の社会民主党(SPD)と、緑の党、そして自由市場主義を掲げる自由民主党(FDP)の3党による連立政権である。そして外相のベアボックは緑の党の所属だ。今年9月には、やはり緑の党のロベルト・ハーベック経済・気候保護相が、「中国に対する甘い姿勢は終わった」と述べ、話題となった。

いまショルツに向けられた批判の多くは、「メルケルの時代にドイツを逆戻りさせる」というものだ。しかし、アンゲラ・メルケルはキリスト教民主同盟でショルツはSPD所属だ。SPDも緑の党も「左派」であり、本来、考え方は近いはずで、ショルツが対中融和に舵を切る動機は見当たらない。加えていまのドイツ国民の対中感情は最悪だ。ドイツの公共放送ZDFの先月の世論調査では、「中国への経済的依存を減らすことは重要か」という問いに84%が重要だと答えたほどだ。

そんななか、なぜショルツは中国訪問を強行したのだろうか。いや、しなければならなかったのだろうか。すでにこのメルマガでも触れている通り、ドイツの経済界には連立政権の誕生から警戒があった。名立たる有名企業のトップや経済界の重鎮が、「中国との関係がドイツには不可欠」と発信し続けたことは紹介してきた。そうした圧力が政権にかかっていたことは想像に難くない。

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