習近平は大喜び。新体制の中国を独ショルツ首相がいち早く訪問したワケ

 

ただ、選挙が命の政治家にとって何より大切なのは民意だ。本来は経済界からの要望は後回しにされる。だがショルツは今回、敢えてそこに踏み込んだ。その理由は何か。一つ考えられるのは、経済の大きな冷え込みやエネルギー不足に対する国民の怒りだ。対ロシア(ウクライナ支援)よりも自分たちの生活を何とかしろという空気も醸成され始めている。この流れが、ロシアと価値観でひとまとめにされる中国への風当たりも緩めているとの感触を得たのだろうか。

だが、それだけではないはずだ。ショルツに現実的な思考をさせたのは、おそらくドイツ経済の直面するもっと大きな変化だ。それは天然ガスなどエネルギー価格の高騰により、国内の製造業の海外脱出が加速されたことだと考えられるのだ。この状況が続けば、当然のこと問題は経済界にとどまらない。雇用の問題へと飛び火し大衆が反応するのも時間の問題だからだ。

10月26日、ショルツはフランスのエマニュエル・マクロン大統領とランチをともにした。これを受けて「THE WALLSTREET JOURNAL」などのメディアは「アメリカが『インフレ削減法』を推進するなら報復する」と二人が話し合ったと報じた。

同法はインフレ抑制の他、補助金によって製造業の国内回帰を促す内容も含んでいる。露骨な国内企業優遇で、日本や韓国も珍しく不満を表明している。当然、欧州企業も補助金を目当てに、アメリカに製造拠点を移そうという動きが顕在化しているのだ。この法案が最後の引き金となって、ロシアのウクライナ侵攻以来、強固に結びついてきたはずの米欧に亀裂が入っている。

この少し前にはマクロンが、「米企業が国内よりも3、4倍も高く欧州に天然ガスを売っている」とアメリカを批判した。つまりショルツは、単にアメリカと歩調を合わせているだけでは国内経済は守れないことを見極めた上で、決意して訪中した可能性があるのだ──
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2022年11月6日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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