ヒヤリハットとは、文字通り、重大な事故につながりそうになって、「ヒヤリ」としたり、「ハッ」とした出来事のこと。ヒヤリハットの効用を示した「ハインリッヒの法則」では、1つの大事故の背景には、29の軽微な事故、さらには300のニアミスが潜んでいるとされています。
一般的には航空機事故や医療事故で、重大な事故を防ぐ策としてハインリッヒの法則は使われますが、私たちの日常生活でも「忘れそうになった」「間違えそうになった」というヒヤリハットは数多く存在します。
例えばテレビのニュースや報道番組を見ていると地名や人名、時には流された映像が間違って報道され、「先ほどテロップが間違っていました」と訂正が入ることはみなさんも度々目にしていると思います。しかし、その「訂正をすることで事故が免れた」状態が繰り返されると、次第に「間違う」という本来であればヒヤリとする行為に慣れが生じます。
テレビというメディアで犯人の顔が間違って流されれば、間違われた人は被害を受けることになるし、地名が間違っていただけでも大変なことになります。ちょっとしたミスが大惨事を引き起こし、時にはテレビ局が名誉棄損で訴えられたり損害賠償を求められたり。テロップの間違いとは、本来は「ヒヤリ」とするはずの重大事なのです。
ところが、ミスをしても結果として何も起こらないと、「ヒヤリ」とも「ハッ」ともしなくなる。「え?間違ってる?じゃ、訂正お願いしま~す」といった具合に、「よくあること」になってしまい、大事故の芽であるヒヤリハットが見逃されてしまうのです。
しかし一方で、どんなに大事故の芽をつむ対策を取っても、ヒューマンエラーはゼロにはなりません。
05年、関西国際空港で閉鎖中の誘導路に貨物便が誤進入する事件が立て続けに2回起きました。いずれもヒヤリハットで終わったのですが、大惨事につながりかねないミスだけに各航空会社に事前に閉鎖中の誘導路の情報を流したり、航空管制塔でも再度閉鎖情報を伝えたりするなど情報の伝達を徹底しました。
ところがその後、さらに2件の誤進入が起きます。「標識がなかったので、どの誘導路なのか分かりづらかった」ことがミスの起きた原因だと報告された為、今度はカラーコーンを置いたり標識を作ったりと、物理的に誤進入を防ぐ対策が講じられました。
「これで大丈夫だろう」─。誰もがそう信じたそうです。
ところがです。またもや誤進入が発生してしまったのです。
つまり、この世で最も不確かでコントロール不可能なものが「人」であり、ソフト面ハード面の防止策に加え、ミスが起こってもそれが重大な事故につながらないような総合的なシステムを構築するしか、大惨事は防げない。
それは今回の事故も同じです。
子供の置き去り事件を繰り返さないためには、保護者・保育園の連携はもちろんのこと、「車」という装置自体にも「防止策機能」が必要になる。それが当たり前にならない限り、痛ましい事故はゼロになりません。高齢者などのふみ違いによる事故も、免許の返還や認知機能テストを厳格にするだけでなく、車のシステム機能も改善してほしいです。
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