蔡英文ではない。台湾統一地方選「本当の敗北者」が習近平である理由

 

とはいえ、今回の選挙結果が、国民党への政権交代を望むものかといえば、それは違うでしょう。どちらかといえば「今回は民進党にお灸をすえたい」という気持ちが強かったのだと思われます。

今回、民進党、国民党以外の民衆党・無所属は、首長ポストを2018年時の1つから3つにまで伸ばしました。今回は民進党に入れないけれども、国民党にも入れたくないという層の受け皿になったのでしょう。

一方、今回の民進党大敗という結果に対し、中国は「和平と安定を求める台湾の主流の民意を反映したもの」と歓迎の意を表明しました。つまり、台湾人は対中強硬路線の民進党を嫌い、統一を目指す国民党に民意が傾いたのだと言いたいわけです。

ただし、東京外国語大学の小笠原欣幸教授は、劣勢の民進党が「抗中保台」(中国に屈せず、台湾を守る)のスローガンを選挙戦後半で多用したことが、むしろマイナスに働いたと分析しています。

ちなみに、小笠原欣幸教授は金門県を除いてすべての当落予想を的中させたことで、台湾でも注目されています。

大讚台灣民主成熟 小笠原曝1關鍵「民進黨2024贏面仍大」!

小笠原教授によれば、政権与党として「偉そう」なおごりが見える民進党に、今回は牽制して「お灸をすえよう」という有権者が多かったことに対して、民進党は中国との対決姿勢を打ち出して挽回を狙ったものの、むしろその意図が有権者に見透かされたと論じています。

じっさい、国民党候補は軒並み「地方選挙なのに対中政策を持ち出している」と批判しており、さらには中間派の有権者の間にも、民進党が無理に対中政策を争点化しようとしている印象を与えてしまったと分析しています。

加えて、台湾では民進党が一強に向かいつつあるという認識があり、過去の歴史から1つの勢力があまりに強大になってしまうことへの警戒感という、台湾人特有のバランス感覚も作用したと小笠原教授は述べています。

その他、小笠原教授は主要な選挙地区についての敗因を詳細に分析されていますが、今回の民進党敗北は、むしろ台湾で健全な民主主義が定着したことを改めて示したのであり、この民主主義を中国による統一で手放したいと考える台湾人はほとんどおらず、「冷静に平然と政権与党にお灸をすえる投票行動ができる台湾の安定ぶりを国際社会は評価すべきだ」と締めくくっています。

小笠原教授の言うように、今回の結果は、国民党政権を望んでいる国民の声ではないでしょう。実際、2018年の統一地方選挙でも国民党は大敗しましたが、2020年の総統選挙と総選挙では民進党が圧勝しました。

このときは2019年1月に習近平が「台湾同胞に告げる書」発表40周年記念大会で、台湾に一国二制度を迫る談話を発表したことが、台湾人の中国への警戒感を高め、地を這っていた蔡英文の支持率を急上昇させ、2020年の総統選挙勝利につながったということもあります。

今後の中国の出方によっては、台湾人の危機感が再び高まり、民進党への支持率へ転化する可能性も少なくありません。

また、データによれば、2018年の地方選挙では国民党陣営(泛藍連盟)の得票率48.79%、民進党陣営(泛緑連盟)39.16%だった(差は9.63%)のに対して、今回は国民党陣営50.03%、民主党陣営41.62%で(差は8.41%)、その差はむしろ縮まっているという見方もあります。

加えて、総統選に向けた候補者選びについて、今回の大敗で蔡英文の影響力が低下する一方で、副首相の頼清徳の力が強くなるという見方もあります。すでに2期目の蔡英文は次回の総統選挙に立候補することはできません。そのため自分の後継者を選び、推すことで影響力保持を狙っていたと思いますが、それは難しくなるでしょう。

この記事の著者・黄文雄さんのメルマガ

初月無料で読む

 

print

  • 蔡英文ではない。台湾統一地方選「本当の敗北者」が習近平である理由
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け