川口春奈主演フジドラマ『silent』の成功に見る、日本社会の成熟と5つの問題点

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切ない純愛ストーリーと若手俳優たちの熱演が相まって、大きな話題を呼んだフジテレビ系ドラマ『silent』。聴覚障がいに正面から向き合った姿勢も高く評価されましたが、識者は本作をどう見たのでしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では著者で米国在住作家の冷泉彰彦さんが、ドラマの世界観や配役、さらには脚本家の「放言」など5つの点を取り上げつつ、それぞれについての考察を記しています。

※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2023年1月3日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

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フジドラマ『silent』成功の陰にある5つの問題

CXの秋ドラマ、『silent』(村瀬健制作、生方美久脚本)は大成功となり、無事に完結しました。地上波の1クール11回のドラマというフォーマットで、まだ「こんなことがやれた」ということには、深い感慨を覚えます。

このドラマについては、ネット上ではあらゆる観点からの「考察」がされており、脚本や演出に関して、あるいは役者さんの演技などについても、様々な評価がされているので特に付け加えるのは止めておきます。

ただ、聴覚障がいという問題を扱った作品としては、4点指摘しておきたいと思います。

1点目は、作品を通じて描き出された世界観には、障がい者への差別的な視点がかなりの程度、克服されていたということです。特に、中途失聴者の苦悩をしっかり描く中で、生まれつきのろう者の発想との違いなどを、安易な同情心や差別意識とは無縁の向き合い方で描いていたのは素晴らしかったと思います。

このメルマガでは、45年前の同月同日を振り返る「フラッシュバック」という企画を続けていますが、明らかに45年前にはあった障がい者への差別というものが、現在は、かなりの程度克服された社会となっていること、また人々の意識にも成熟が見られることは否定できない事実だと思います。本作もそのような時代を背景をとしており、この点において現代を生きる日本人は自分たちを誇ってもいいと思います。

2点目は、その一方で、ここまで社会を持っていくプロセスにおいて、一時期において「人権」を掲げ、団体を作って運動をしてきた人々には一定程度の功績があるということです。現代の若い世代には、人権を掲げた集団行動には「持てる側が正義を掲げてマウントを取る行動」のように受け取る傾向があるようです。そうした発想法からは、ネガティブに捉えられがちかもしれませんが、人権を掲げた運動があったからこそ、現在の人権が尊重される社会が実現されたわけで、そのプロセスを全面的に否定するのは少し違うと思います。

3点目は、優生思想についてです。主人公の交際相手の家族が、中途失聴者の血縁であることから妊娠中に胎児の異常を心配し、検査を受けた結果、正常と分かって安堵するという演出があります。また、生まれてきたその子には「優生」という命名がされています。このエピソードについては、政治的な批判がありました。また、難聴者のインフルエンサーの方から、正直な感想として強い違和感が表明されていたのも事実です。

【silent】ドラマ9話で炎上してるのみんな知ってた?

ただ、この問題については、CXだから保守に振ったとかそういうことではなく、過去の常識に囚われている層、障がいと差別について真剣に向き合った経験の薄い層までを「包摂する」姿勢として、企画のトータルで考えるのであれば、ギリギリ許容できるように思いました。実は上記の動画のコメント欄で、多くの方が誠実なディスカッションを展開されており、その真剣な姿勢には希望を感じた次第です。

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