残るは核使用のみ。総司令官にラスボス就任で透けるロシア軍の窮地

 

ゲラシモフ参謀総長 = ウクライナ戦争総司令官に

さて、スロヴィキンに代わって、特別軍事作戦の総司令官に任命されたのは、なんと、ゲラシモフ参謀総長その人です。NHK NEWS WEB1月12日。

ロシアでウクライナへの軍事侵攻の指揮を執る新たな総司令官に、軍の制服組トップのゲラシモフ参謀総長が任命されました。ロシアの新聞の中には「大規模な攻撃前夜だ」という見方を伝えるところも出ています。

 

ロシア国防省は11日、ショイグ国防相が、軍事侵攻の指揮を執る新たな総司令官にゲラシモフ参謀総長を任命したと発表しました。

 

ロシアで軍の制服組トップの参謀総長が、軍事作戦でみずから指揮を執るのは異例のことです。

ゲラシモフ参謀総長といっても、普通の日本人は知らないでしょう。どちらかというと、ショイグ国防相の方が有名です。しかし、実をいうとショイグさんは、軍事の素人。ショイグさんは、1991年から2012年まで、21年間も「非常事態省」のトップでした。この省は、山火事とか洪水とか、大きな事故などが起こった時に、被災者、被害者を助ける役割です。ショイグは、「困ったときに助けにきてくれる頼れるおじさん」ということで人気者になった。それで2012年、国防大臣に出世したのです。人気はあっても、軍事のことは何もわかりません。

一方ゲラシモフさんは、「ほんまもんの軍人」です。第二次チェチェン戦争で、ロシア軍の指揮をとった。2012年に参謀総長に任命された。2014年には、ウクライナ内戦に介入し、自称ルガンスク人民共和国、自称ドネツク人民共和国を助け、ロシア有利で、ミンスク合意にこぎつけるのに貢献しました。

そしてこの方、西側の軍人には、「戦略家」として知られています。ゲラシモフが提唱している戦略を「ゲラシモフドクトリン」呼びます。これは、要するにロシアの「ハイブリッド戦争理論」ですね。

では、ハイブリット戦争とはなんでしょうか?戦争の手段として、軍事的手段だけでなく、非軍事的手段の役割を重視する。非軍事的手段とは、たとえば、政治、経済、情報、敵国住民の抗議ポテンシャルを高めるなどなど。

2014年3月、ロシアは無血で、ウクライナからクリミアを奪いました。これを、「ハイブリッド戦争の大成功例」と見る人がたくさんいます。別の言い方でいえば、「ゲラシモフドクトリンの勝利」。

ラスボス出陣が意味すること

では、ゲラシモフ参謀総長が、ロシア―ウクライナ戦争総司令官になることの意味は、何でしょうか?

一つは、ロシア軍がかなり追い詰められているということ。ロシア軍が勝っているのなら、総司令官をコロコロ代える必要がない。ましてやロシア軍のラスボスが、総司令官になる必要などない。

二つ目は、ロシア軍が大規模な攻撃をしかけようとしている。ゲラシモフは、自分の威信にかけて、ウクライナ軍に勝とうとするでしょう。大きな戦いが迫っています。

三つめは、もしラスボス・ゲラシモフが勝てなかったらどうなるのだろうということ。いよいよ追い詰められたプーチンが、「戦術核」を使う可能性が高まります。

私たちは、プーチンが戦術核使用の決断を下さないことを願いましょう。

(無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』2022年1月13日号より一部抜粋)

image by: Free Wind 2014 / Shutterstock.com

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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