プーチンと同じ罪を犯そうとする日米の愚。台湾有事への介入がNGである明確な理由

 

習が「武力統一を強調した」というのは本当か?

さて、デビッドソンやバーンズなどの与太話に多くの人が引っかかってしまう1つの条件は、習近平が去る10月の中国共産党大会での演説で「台湾は必ず統一する。武力行使も辞さずと強調した」という話が罷り通ってきたことにある。

確かに、私が調べた限りではロイター電など一部の報道は「武力行使を強調」といった見出しの立て方をしたが、これは明らかに歪曲。前出の本誌No.1183でも習演説の該当部分の全文を資料として掲載しておいたが、それを読めば分かる通り、さんざん「平和的統一、一国二制度」を強調した上でたった1行だけ「決して武力行使の放棄を約束せず、あらゆる必要な措置をとるという選択肢を残す」と付け加えているだけである。

しかもそのような言い方は、今に始まったことでも何でもなく、1955年5月の全国人民代表大会で周恩来総理が「中国人民が台湾を解放する方法は2つある。すなわち戦争の方法と平和の方法である。中国人民は可能な条件のもとで、平和的方法で台湾の解放を勝ち取る」と述べて以来、不変の北京の論理である。

その当時、周恩来がそう言ったのには何の不思議もなくて、1949年に毛沢東軍は内戦に基本的に勝利を収め人民共和国の建国を宣言したものの、台湾に逃げ込んだ蒋介石軍との武力衝突はまだ続いていた。北京は台湾の「武力解放」を掲げ、他方台北は「大陸反攻」を叫ぶ中、中国軍は1950年には船山諸島、海南島を奪取し、54年には大陳島、一江山島を占領した(第1次台湾海峡危機)。58年には金門・馬祖両島をめぐり本格的な砲撃戦・空中戦が交わされ、米国が外交的に介入して仲裁した(第2次台湾海峡危機)。さらに62~65年には台湾軍が大陸反攻を目指して小型舟艇に乗った武装工作員による襲撃を繰り返し、台湾側だけで千数百人が戦死した(国光作戦)。これが両軍の直接戦闘の最後で、以後、95~96年に李登輝政権の誕生を恐れた中国が台湾沖にミサイルを撃ち込むなどの示威行動を行い、米国が空母機動艦隊を急派するなど緊張が高まったが(第3次台湾海峡危機)、戦闘には至らなかった。

このように、中国の内戦は実質的には60年代半ばから鎮静化しているものの形式的には今なお終わっていないのであって、そのような条件下で中国が台湾に対する武力行使の可能性を自分の方から放棄することはあり得ない。1955年の周恩来発言もその67年後の習近平発言も、ただ単にそのことを言っているだけなのに、歴史を学習しない人たちが習が今回何か特別に凶悪な侵略主義者の本性を剥き出しにしたかに描き上げているのである。

そのように、台湾問題は基本的に国内問題であり、内戦の延長上にある。だから仮に戦闘が再開されるとすればそれはあくまで内戦。民主主義がどうしたとか言って米国や日本がそれに軍事力を以て介入すれば、それは国際法上、侵略に当たる。ウクライナ戦争が基本的に同国内におけるドンパス地方のロシア系住民の自治権をめぐる内戦であり、それにロシアが介入することは、ソ連邦時代ならばそれもまだ内戦の範囲だったが、ソ連邦が崩壊してウクライナが独立した後では侵略になってしまうわけで、これでもしバイデンや岸田が台湾有事に軍事介入すればプーチンと同じ間違いを犯すことになるのである。

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