プーチンと同じ罪を犯そうとする日米の愚。台湾有事への介入がNGである明確な理由

 

ホワイトハウスと国務省は舵を切った?

米中対話再開への流れのきっかけとなったのは、昨年11月14日、バリ島で開かれたG20首脳会議の場で行われた米中首脳会談でバイデンが「中国側には、台湾に侵攻しようといういかなる差し迫った企図もないと、私は思う」と述べ、習近平主席がそれをよしとしてブリンケン訪中を受け入れる旨同意したことである。そのことを本誌は、No.1183(23年11月28日号)で、米ランド研究所の上級防衛分析官デレク・グロスマンの論説を引用しつつ、米国発の無責任な『台湾有事』狂想曲は「ひとまず鎮静化に向かうだろう」との判断を示しておいたが、その基調は気球事件の後でも変わりはない。

【関連】ハシゴを外された日本。バイデン「中国の台湾侵攻ない」発言で崩れた台湾有事切迫論

とはいえ、そのような方向転換に踏み出しているのは、今のところホワイトハウスと国務省だけである。しかもその踏み出し方はおずおずとしたもので、何がおずおずかと言えば、

  1. 余りにも漫画チックな「台湾有事2027年切迫」説を煽ることは流石に止めることにし
  2. また気候変動など地球的課題については協力することを否定しないけれども
  3. 中国の半導体産業の弱体化をはじめ経済制裁や人権抑圧非難などはむしろ強化しよう

――という、中国攻撃の重点の置き所をずらそうとしているだけだからである。

このような政権中枢の動静に危機感を抱いているのは、「台湾有事」を煽ることで予算獲得に励んできたペンタゴンやCIA、議会の国防族などのゴリゴリ冷戦派で、その後ろにはウクライナ戦争が終わった後の兵器市場開拓を進めたい米軍産複合体が控えている。バーンズCIA長官が2日、ジョージタウン大学での講演で、

▼インテリジェンスによってわれわれは、習近平が27年までに台湾侵攻を成功させることが出来るよう準備を整えることを人民解放軍に指示したことを把握している。

▼27年か他の年に侵攻することを彼が決めたというわけではない。しかし、彼の関心と野心が本気であることに注意を喚起する必要がある。

――と語ったのは、冷戦的タカ派が慌て出している表れで、およそ常識で考えて一国のインテリジェンスのトップがこのような根拠不明な与太話を「インテリジェンスによって〔我々だけが?〕把握している」などという内緒事を自慢げにちょっとだけ漏らすかのような口調で語ることなどあり得ない。もしそれが本当なら、きちんと根拠を示して国際社会に暴露し、米政府として直接、習近平に問いたださなければおかしいでしょうに。「インテリジェンス」が聞いて呆れるよ、全く。

おそらくこれは、大元であるフィリップ・デビッドソン前司令官の「27年危機説」が何の根拠もないことがバレそうになってきたために(本誌前号参照)、米日に跨る冷戦派が何とかそれを補強して本当らしく見せようとジタバタしている姿なのである。そこへ折よく中国の正体不明の気球がフワフワとんできたので、ペンタゴンがこれに飛びついて洋上で撃墜するなど大ごとに仕立てて、とりあえずブリンケンの訪中を伸ばさせる材料としたのである。

【関連】火付け役が主張を修正。それでも「台湾有事切迫説」を信じ込む日本人

この記事の著者・高野孟さんのメルマガ

初月無料で読む

print
いま読まれてます

  • プーチンと同じ罪を犯そうとする日米の愚。台湾有事への介入がNGである明確な理由
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け