早ければ2023年中の勃発を予想する識者も存在するなど、もはやいつ起きても不思議ではないとの報道がなされている中国の台湾軍事侵攻。しかし習近平国家主席には、少なくとも現時点ではその企図はないようです。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』では著者でジャーナリストの高野孟さんが、米中首脳会談後のバイデン大統領の発言を引きつつ、台湾有事「切迫」論に何の根拠もなかったという衝撃的な事実を紹介。さらに「有事が差し迫っている」という流れを必要とした台湾政権の思惑を解説するとともに、その波に乗せられ防衛費倍増路線に突入しようとしている日本政府の今後を予測しています。
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※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2022年11月28日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:高野孟(たかの・はじめ)
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。
ひとまず鎮静化に向かう「台湾有事」狂想曲/バイデンも立場を修正する中で日本はハシゴを外される?
米軍部に直結するシンクタンク「ランド研究所」の上級防衛分析官であるデレク・グロスマンが11月16日付「Nikkei Asia」に寄稿した中に、ビックリ仰天のパラグラフがある。
「11月14日、バリ島でのG20首脳会議に先立って習近平中国主席と会談したバイデン米大統領は、会談後、『中国側には、台湾に侵攻しようといういかなる差し迫った企図(imminent attempt)もないと、私は思う』と述べた」
何の根拠もなかった「台湾有事切迫」論
えっ?ちょっと待って下さいよ。21年3月に米上院の公聴会で米海軍大将が「中国による台湾回収は6年以内」と証言して以来、米政府高官からは「2027年、いや実際にはもっと早く23年か24年にも習は暴発するかもしれない」といった危機感あふれる発言が繰り返され、日本政府・自民党もそれを情勢認識の基本に据えて、巡航ミサイル装備だ、敵基地攻撃能力取得だ、南西諸島にシェルター建設だなどと、狂ったように騒ぎ立ててきたのではなかったか。
この筆者のグロスマンも呆れていて、バイデンがそのように「台湾有事」切迫論からあっさり撤退したということは、同政権の危機論には、2027年が中国人民解放軍の創建100周年だという以外に何の事実に基づく現実的な根拠もなかったことを示すものだと指摘している。
本誌は、最近で言えばNo.1164(7月18日号)「間違いだらけの『台湾有事論』」、 No.1176(10月10日号)「バイデン米大統領の『台湾有事』論は認知バイアスの表れ」などで、一貫してその虚妄性を主張してきたので、今更驚きはしないが、ランド研究所までがこのように冷静な分析に立ち戻り、大統領が正気を取り戻すのを助けようとしているのは、誠に喜ばしいことで歓迎したい。
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