火付け役が主張を修正。それでも「台湾有事切迫説」を信じ込む日本人

tkn20230113
 

2021年3月に当時の米軍司令官が「6年以内の中国による台湾侵攻の可能性」を示唆して以来、もはやいつ起きても不思議ではないかのように報じられてきた台湾有事。しかしながらその後元司令官は、自身の発言に若干の「修正」を加えていたようです。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』では著者でジャーナリストの高野孟さんが、そもそもこの発言がどのような前提に基づきなされたものなのかを検証するとともに、元司令官の「発言修正」とも取れるインタビュー記事を紹介。その上で、改めて「台湾有事論の基本」を記しています。

この記事の著者・高野孟さんのメルマガ

初月無料で読む

※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2023年1月30日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読ををご登録の上、1月分のバックナンバーをお求め下さい。

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

「台湾有事」切迫説の張本人が岸田政権を“激励”に/デビッドソン前米インド太平洋軍司令官の来日

フィリップ・デビッドソンと言えば、米インド太平洋司令官からの退任を目前にした2021年3月に米上院軍事委員会の公聴会で中国の台湾侵攻について問われ、「この10年以内、実際には今後6年以内にその脅威が現実化すると思う」と発言し、今日に至る「台湾有事」切迫説の氾濫のきっかけを作った人物である。

退役後は在ワシントンの笹川平和財団諮問委員となっている彼が、このほど来日、自民党の外交部会などの合同会合で24日に講演し、またその前後に幾つかの日本のメディアと会見するなどして、相変わらず「台湾有事『27年まで』に現実味」(26日付日経の見出し)などと煽り立てている。

台湾有事説は、米日の軍事的タカ派の側で前々から散々言われてきたことではあるが、2年前のデビッドソンの公聴会発言は、「この10年以内、実際には6年以内に」と年限を挿入していたため、極めて現実味のある予測であるかに受け取られ、これを後付けするような発言や報道が沸き立って大いに話題となった。日本で最も敏感に反応したのは、首相を降板して7カ月余、敵基地攻撃能力や核シェアリングなどこれまでの常識を超えたそれこそ異次元の軍事力増強の道を先導しようと燃え上がっていた安倍晋三元首相で、さっそく麻生太郎副総理と語らって、このデビットソン情勢判断を基調として採用することで一気に日本の防衛タブー破りを決行することにした。今の岸田政権の軍拡路線はまさにその流れに抗い難い中で転がり出していることである。この路線を大いに激励し、後戻りできなくさせることが、彼の来日の目的であるに違いない。

ところが、そもそものこのデビッドソン発言は、前後の文脈を含めて全文公開されていない。その公聴会では、最初にデビッドソンがインド太平洋司令部の任務全般について文書を読み上げて報告し、然る後に口頭による質疑が行われた。前者は米上院軍事委員会のサイトで今も公開されているが、後者は非公開で、どこからか漏れ伝わる格好で上述の「この10年以内、実際には今後6年以内にその〔中国の台湾侵攻の〕脅威が現実化すると思う」という印象的な一句だけが報道され、それが独り歩きして増幅されることになった。

この記事の著者・高野孟さんのメルマガ

初月無料で読む

print
いま読まれてます

  • 火付け役が主張を修正。それでも「台湾有事切迫説」を信じ込む日本人
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け