元朝日新聞校閲センター長が考察、侍ジャパンと「一生懸命」の縁

 

「一生懸命」は忠臣蔵にも書かれていた!

「一生懸命」という表記が使われるようになったのは、江戸時代からとも言われています。仮名手本忠臣蔵の三段目、裏門の段に「主人一生懸命の場」という表記が見られます。

江戸時代になると、領土を巡って戦うこともなくなってきたので、かつてのように「懸命に土地を守る」という必要もなくなって、「一生懸命地」という意識は薄れてきたのかもしれません。

「一所(いっしょ)」が「一生(いっしょう)」に音韻変化するのは、比較的自然な流れです。また、「一生の不作」「一生のお願い」といったように、「生きている間に一度しかないようなこと」「生涯にかかわる重大なこと」という意味が「一生」に加わったことも、もう一つの背景にあるかもしれません。

侍ジャパンと「一生懸命」のえにし

「生涯にかかわる重要なことに対して、力を尽くして頑張る」という意味が、「一生懸命」ということばを生み出したといえるような気がします。これは「一つ所を頑張る」ということでもあるので、「一所懸命」と通底しているというのは、やや強引でしょうか。

それでも、小学生のころに敵意をもって見ていた「一生懸命」のイメージは、いまでも和らぐことがないのです。武家社会のなかで生まれた「一所懸命」ということばに由来する「一生懸命」が、侍ジャパンという野球チームで甦る。ことばの不思議な縁(えにし)のように思えます。一生懸命が「思いっきり楽しむ」という意味をもつようになれば、WBCの見方もまた変わってくるように思うのだけれど。

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未來交創株式会社代表取締役/文筆家 朝日新聞 元校閲センター長・用語幹事 早稲田大学卒業、事業構想大学院大学修了 十数年にわたり、漢字や日本語に関するコラム「漢字んな話」「漢話字典」「ことばのたまゆら」を始め、時代を映すことばエッセイ「あのとき」を朝日新聞に連載。2019年に未來交創を立ち上げ、ビジネスの在り方を文章・ことばから見る新たなコンサルティングを展開。大学のキャリアセミナー、企業・自治体の広報研修に多数出講、テレビ・ラジオ・雑誌などメディアにも登場している。 《著書》 『マジ文章書けないんだけど』(21年4月現在9.4万部、大和書房)、『きっちり!恥ずかしくない!文章が書ける』(すばる舎/朝日文庫)、『漢字んな話』(三省堂)など多数。

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