なぜ一人当たりのGDPが急落しているのか?
下に示すのは、国民一人当たりの名目GDPの順位です。
■国民一人あたりの名目GDPランキング
1位 ルクセンブルグ 136,701ドル
2位 アイルランド 100,129ドル
3位 スイス 92,249ドル
4位 ノルウェー 89,042ドル
5位 シンガポール 72,795ドル
6位 アイスランド 69,422ドル
7位 アメリカ 69,227ドル
18位 ドイツ 51,238ドル
22位 イギリス 47,329ドル
23位 フランス 45,188ドル
27位 日本 39,301ドル
29位 韓国 35,004ドル
出典:IMF World Economic Outlook Database 2022
この「一人当たりのGDP」というのは、「労働生産性」とも言われます。国民一人あたり、どのくらい生産性があるかという数値ということです。
日本は、この一人当たりのGDPは1996年には世界第5位でした。しかし90年代の終わりから急落し、それから20年以上、下降し続けました。2021年では27位にまで落ちているのです。この一人当たりのGDPが落ちたことで、「日本人一人一人の生産力が落ちた」というように言われることが多いです。経済評論家の多くもこのデータを見て「日本はもっと頑張って生産性を上げるべき」ということを述べる人も多々います。
しかし、日本の労働生産性(一人当たりGDP)が落ちたのは、国民一人一人の生産力が落ちたからではありません。日本の経済構造が90年代以降急激に変化したからなのです。そしてこの経済構造の変化が、日本経済を歪めさせ国民生活を苦しくしている主原因でもあるのです。
韓国より低い製造業の労働生産性
日本の一人あたりのGDPが、世界ランキングで急落している要因は実は明白です。製造業における労働生産性が下がっているからです。下は、製造業の労働生産性の上位国を、2000年と2018年で比較したものです。
■2000年の製造業の労働生産性の世界ランク
1位 日本 85,182ドル
2位 アイルランド 84,820ドル
3位 スイス 79,440ドル
4位 アメリカ 78,896ドル
5位 スウェーデン 75,925ドル
6位 フィンランド 75,463ドル
7位 ベルギー 68,388ドル
8位 ルクセンブルグ 65,050ドル
9位 オランダ 63,741ドル
10位 デンマーク 62,560ドル
11位 フランス 62,051ドル
12位 イギリス 61,896ドル
■2018年の製造業の労働生産性の世界ランク
1位 アイルランド 542,547ドル
2位 スイス 196,108ドル
3位 デンマーク 151,410ドル
4位 アメリカ 148,480ドル
5位 ベルギー 127,309ドル
6位 スウェーデン 126,924ドル
7位 オランダ 125,292ドル
8位 ノルウェー 117,259ドル
9位 フィンランド 114,924ドル
10位 オーストリア 114,195ドル
15位 韓国 100,066ドル
16位 日本 98,795ドル
出典:日本生産性本部「労働生産性の国際比較2018」
このデータを見ればわかるように、2000年の段階では、日本は製造業の労働生産性は世界一を誇っていました。日本は、高度成長期からバブル期まで製造業において、世界に抜きんでていたのであり、製造業が日本経済をけん引してきたのです。
しかし、2018年になると、順位は16位にまで後退しています。しかも韓国よりも低いのです。この製造業での労働生産性の順位低下が、そのまま一人あたりGDPの順位低下に結びついているのです。
ではなぜ製造業での労働生産性が落ちてしまったのでしょうか?日本人の能力が落ちたのでしょうか?決してそうではありません。日本人の能力は今でも世界的に高いのです。しかし生産設備等が、日本から海外に移されており、日本の製造業は空っぽの状態になってしまったからです。
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