後手に回って結局「誤報」。北のミサイルすら見失う自衛隊の役立たず

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4月13日、北海道全域に鳴り響いたJアラートの避難を呼びかける音声。結果的に日本への着弾はなく事なきを得たものの、ミサイルを見失った自衛隊の能力が問われる事態となっています。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』ではジャーナリストの高野さんが、自衛隊の危機察知・対応能力のお粗末さを厳しく批判。軍としての最低限の力もない自衛隊に「敵基地攻撃能力」を持たせることなど無意味でしかない、との厳しい見解を記しています。

※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2023年4月17日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

敵基地攻撃能力など持つだけ無駄。間抜けな日本の危機察知・対応能力

陸上自衛隊で最強とされる第8師団の司令官以下、中心幹部10名を載せたヘリコプターが4月6日、宮古島周辺で忽然と姿を消し、1週間経ってもどこへ行ったか分からなかった事件と、北朝鮮が13日に発射したICBMらしきものを自衛隊のレーダーが捉えた直後に画面上で見失い、どこへ行ったか分からなくなって、自棄のやんぱちで北海道全域にJアラートを出してしまった出来事とは、全く同質の問題。つまりは日本自衛隊には軍としての最低限のまともな危機察知能力も危機対応能力も備わっていないということである。

こんな有様をそのままにして、いくら防衛費を倍増して最新兵器を買い与えても何の役にも立たないし、ましてや「敵基地先制攻撃能力」など持たせても無駄な戦争を引き起こすだけで百害あって一利もないことが、これでますます明らかになった。

クソの役にもたっていない日本のミサイル探知システム

今回の場合、北朝鮮は午前7時22分頃にロケットを発射し、それからたぶん数分後(と思われるが正式発表がないので不詳)に自衛隊のレーダー網で捉えたが、松野博一官房長官の記者会見での発言によれば「探知の直後にレーダーから消失していた」。

「直後」というのがどのくらい直後で、従って、自衛隊のレーダーがそれを捉えていたのが数十秒なのか数分間なのかも(正式発表がないので)分からないが、その短い間に得られたデータを元に防衛省のシステムが予測軌道や落下地点を自動計算した結果、北海道方面に8時頃に落下する可能性があると判断、内閣官房が7時55分頃になって「Jアラート」を発出した。が、現実にはどこかに何かが落下して来たという確認は取れないまま、落ちて来るならとっくに来ているはずだという時間が過ぎた8時20分頃に「落下の可能性がなくなった」と“訂正”を出した。

問題点は3つ。

第1に、北朝鮮がミサイルを発射したということを日本が自分で察知する能力はなく、専ら米国の早期警戒用の静止衛星に頼るしかない。

偵察衛星には2種類あり、

  1. 高度200km前後の低軌道を飛んで地上の30cmかそれ以下のものまで撮影できるが1日に1回程度巡回するだけのいわゆるスパイ衛星
  2. 3万6,000kmの静止軌道上にあって特定地域を常時監視し、赤外線装置によってミサイル発射や核爆発などの熱源を感知する早期警戒衛星

がある。が、後者は何かしらが発射されたことを赤外線感知するだけ。その情報が、米航空宇宙防衛司令部から横田米空軍基地内にある在日米空軍司令部&航空自衛隊司令部=日米共同作戦センターにもたらされ、やがて米日両軍のレーダーシステムが北のミサイルを捕捉することになるが、地上ないし海上(のイージス艦の)レーダーは地平線から上に出てきたものしか捉えることができないので、それまでに若干の時間差が生じる。

今回の場合は、ICBMの発射実験で、それを真っ直ぐの軌道で撃てばハワイかロサンゼルスかに届いてしまう危険があるので、ロフテッド軌道〔わざと垂直に近い上空に打ち上げる〕で日本海に落としたり、日本列島を飛び越えて北太平洋に落とすなどして発射と制御の精度を試す実験をする。これが実験だったからいいようなものの、本当に日本を攻撃目標としたミサイル攻撃であった場合、こんなにノンビリして、後になって「あれ?間違いでした」とか言っているのでは到底間に合わず、たぶん数分、長くても6~7分程度で核弾頭か通常爆弾を装着したミサイルは日本に届いている。つまり今のシステムはクソの役にも立っていないということである。

さらに、「敵基地攻撃能力」との関係で言えば、そのように敵の対日攻撃の予兆の察知、及び発射の事実確認を自分では出来ずに他国に頼るというのは、ほとんど信じられない能天気で、自国の運命を誰かに預けるという売国的行為でさえある。想像して貰いたい。仮に米国が邪悪な意図を持って、日本と北朝鮮を戦争させたいと思えば、北がミサイルを撃ったというフェイクの初発情報を流せばいいわけで、赤子の手を捻るようにこの国の運命を左右することができる。

だから米国に頼らない完全武装の自主防衛態勢を目指すのか、それとも武力で歪み合う東アジアの安保環境を外交戦略として克服して行こうとするのかが、根本的な選択肢である。

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