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「疑問形で保存」はなぜ使えるのか?アイデアを育てる情報整理術

何であれ新しいものを作り上げるには、多くのアイデアや情報が必要で、それらをどうストックし、取り出して利用するかがとても重要です。「知的生産」に役立つ考え方やノウハウについて探究を続ける文筆家の倉下忠憲さんは、今回のメルマガ『Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~』で、最近出会った「お気に入りの12の質問」というテクニックを紹介。自分が「気になっていること」を疑問形にすることでくっきりと見えてくるものがあると、実践しながら考えた過程を詳しく記述し、その有効性を伝えています。

疑問文で保存する

『SECOND BRAIN(セカンドブレイン)時間に追われない「知的生産術」』という本を読んでいたら「お気に入りの12の質問」というテクニックが出てきました。
お気に入りの12の質問 – 倉下忠憲の発想工房

物理学者リチャード・ファインマンへのインタビューが元になっているようです。難しい話は特にありません。自分が研究しているテーマにおいて気になっていることを「常備」しておき、新しい知見を得たらそれが自分の「気になっていること」の解決に役立たないかを検討する、というものです。

上記の本では「質問」となっていますが(おそらくquestionの訳でしょう)、ここでは「疑問」としましょう。自分がずっとひっかかっている疑問をストックしておき、新しい知見と出会うたびに「この話は、自分のあの疑問の解決に役立つか」を考えよう、ということです。

ポイントは疑問を「ストック」しておく、という点でしょう。インタビューの中でもファインマンは「それらの問題はほぼ休眠状態でかまいません」と答えています。つまり、いつもその問題について注意を向け続けているわけではありません。普段の時間はまるっと忘れている。でも、新しい知見と出会うそのタイミングで眠らせていたその疑問を引っ張り出してくるわけです。

このやり方は面白いと思いました。そこでさっそくWorkFlowyに「12のテーマ(疑問)を持つ」という大項目を作り、その中に自分が気になっている疑問を並べてみました。この時点で12個という数が自分にとって多いのか、少ないのかはわかりません。大項目の名前もこれでいいのかわかりません。そういうのは実際にやってみないとわからない事柄なので、まずは作ってみるところからです。

で、実際に作ってみて感じました。これはなかなかいいものだ、と。たとえば、倉下がずっと抱えている企画案に『僕らの生存戦略』があります。これは単なる名詞なので疑問文ではありません。疑問文に直せば、「僕らの生存戦略とは何か?」となりそうですが、その疑問文が自分の「気になっていること」かと言えばかなり違う感じがします。

ではどんな疑問文だったら自分の関心事を表現するに適しているのかを考えてみると、「現代を生きる僕たちが知っておきたいことは何か?」という疑問文が生成されました。これだと実にしっくりきます。

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言い換えれば、私の『僕らの生存戦略』という企画案は、まず「現代を生きる僕たちが知っておきたいことは何か?」という私なりの疑問があり、その疑問に対して一つの答えを与える形で生まれている、ということです。かなり大胆に言ってしまえば、その疑問の方が企画案よりも根源的だと言えるでしょう。

実際、「現代を生きる僕たちが知っておきたいことは何か?」という項目の下に『僕らの生存戦略』が位置づけられるわけですが、それ以外の項目もいくつかそこに並ぶことになります。一つの疑問への答えかたは一つには限らない。当たり前の話ではありますが、これまでずっと「企画案」ばかりにフォーカスして情報整理をしていたので、その点が見えていませんでした。

なかなか良い発見をしたという気持ちで、続けて下記のような項目を書き足しました。

ご覧になってもわからないと思いますが、総数がすでに12を超えています(WorkFlowyでは項目数を管理できないのがちょっと難点です)。とは言え、いくつかの項目は統廃合ができそうなので12個内に収めること自体は可能だと思います。でもって、その統廃合が重要なのだとも感じます。

このリストは考え事をするための道具です。その機能は、新しい知見と自分の疑問との関係をテストすることであって、自分の疑問データベースを作ることではありません。もし項目の数が20個や30個に膨れ上がってしまったら関係のテストの負荷がきわめて大きくなります。それでは続かないでしょう。

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それよりも、一番大きなテーマのもとで考え、関係あるならば下位項目のどこかに位置づける(≒関係づける)という運用がよいでしょう。網羅性を目指すのではなく、一番広くひっかかるポイントを列挙することを目指すわけです。

逆に言えば、12個という数に限定するために、「自分にとって一番大きなテーマ(一番引っかかっていること)は何か?」という観点でテーマ群を検査することになります。ここに不思議なポイントがあるのです。

たとえば、企画案が20個も30個も並んでいると、どれもこれもが面白そうに思えます。順位づけなど不可能に感じられます。しかし、疑問文が並んでいるなら違うのです。

この2つを見比べたとき、明らかに自分の中で後者の方がより根源的だと、より切実に知りたいと感じているとはっきり知覚できます。企画案の状態で保存していたときにはできなかった順位づけがこの形では可能になっています。

さらにです。『僕らの生存戦略」という企画案は一つの独立した存在です。ある種のオブジェクトと言ってよいでしょう。それ自身はそれ以上の変化を拒んでいるようなところがあります。しかし、「僕らの生存戦略とは何か?」という疑問文なら話はかわります。その疑問文はいくらでも書き換えたり、上位や下位に位置づけたりできます。変化させやすい状態なのです。

その意味で──少なくとも倉下の情報整理においては──、テーマのような大きなものはまず疑問形で保存しておき、その内部に関連する企画案などを置いておくのが良さそうだ、と感じています。しかし、よくよく考えてみれば私の本の企画案などはだいたい何かしらの疑問から生まれているはずなのに、「疑問形」で保存することなどこれまでまったく考えていませんでした。

この辺も、「ちまたの情報整理によくある束縛」なのかもしれません。それもまた検討してみたい課題です。とりあえず、「なぜ私たちは自分に合わせた情報整理システムを作れないのか?」で保存しておきましょう。
(メルマガ『Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~』2023年4月24日号より一部抜粋)

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image by: Shutterstock.com

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1980年生まれ。関西在住。ブロガー&文筆業。コンビニアドバイザー。2010年8月『Evernote「超」仕事術』執筆。2011年2月『Evernote「超」知的生産術』執筆。2011年5月『Facebook×Twitterで実践するセルフブランディング』執筆。2011年9月『クラウド時代のハイブリッド手帳術』執筆。2012年3月『シゴタノ!手帳術』執筆。2012年6月『Evernoteとアナログノートによる ハイブリッド発想術』執筆。2013年3月『ソーシャル時代のハイブリッド読書術』執筆。2013年12月『KDPではじめる セルフパブリッシング』執筆。2014年4月『BizArts』執筆。2014年5月『アリスの物語』執筆。2016年2月『ズボラな僕がEvernoteで情報の片付け達人になった理由』執筆。

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【著者】 倉下忠憲 【月額】 ¥733/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 月曜日 発行予定

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