ホンマでっか池田教授も過去に書いていた「老化は病気」説は本当か

 

シンクレアの本の30年も前に、同じアイデアを考えていたことを自慢するつもりはない。なぜならば、この考えは恐らく間違いだからだ。早老症という病気がある。いくつかのタイプの早老症があって、日本人に多いのはウェルナー症候群で20代から老化(白内障、脱毛、白髪、ロコモシンドローム)が始まり、実年齢よりもはるかに老けて見える劣勢の遺伝病である。DNAが傷ついたときの修復に関与するDNAヘリカーゼをコードする遺伝子に難があるようだ。

他にも、はるかに稀で重症なハッチンソン・ギルフォード症候群という早老症があり、これは優勢の遺伝病で、患者は10歳未満から老化が始まり、15歳くらいまでしか生きられない。

シンクレアは、ウェルナー症候群という特殊な老化が病気であれば、通常の老化も病気と考えてもおかしくはないと言いたいようであるが、早老症と通常の老化はレベルが違う。早老症が病気であることは間違いない。なる人もならない人もいるからだ。しかし通常の老化は、すべての人が遭遇する事態で例外はない。病気というのは異常のことで、すべての人が遭遇する身心の状態は通常であって、異常と考えるのは無理がある。老化を病気だと言い張る人も、赤ちゃんが成長するのを病気だと言う人はいない。

シンクレアは「老化は1個の病気である。私はそう確信している。その病気は治療可能であり、私たちが生きている間に治せるようになると信じている。そうなれば、人間の健康に対する私たちの見方は根底からくつがえるだろう」(前掲書160ページ)と楽観的な希望を述べており、この楽観性が、この本がベストセラーになった原因であろう。

多くの人は不老不死になる魔法の方法が書いてあるかもしれないと期待して買ったのだと思うが、中身は結構専門的で、生物学や基礎医学の知識が乏しい人が理解するのは容易でないと思う。

かつて、理論物理学者のスティーヴン・ホーキングが一般向けに書いた『ホーキング、宇宙を語る』は全世界で1000万部(日本語版110万部)の大ベストセラーになったが、車椅子の天才科学者(ホーキングはALS=筋萎縮性側索硬化症を患っていた)という話題性と、理論物理の本にもかかわらず、数式が一つしかないという一見読みやすそうな体裁に釣られて買った人がほとんどだと思うが、内容を正確に理解した人はごく少数ではないだろうか。中身が理解できなくても、何らかの流行で、本は売れてしまうことがあるのだ。

老化が一つの病気である、という考えが魅力的なのは分かる。老化に伴って、がん、糖尿病、動脈硬化、運動機能や認知機能の低下、といった様々な心身の不調が起こる。もし老化が一つの病気であれば、これらの不調に対して個別に対応しなくとも、老化という一つの病気を治しさえすれば、すべての不調は解消するからだ。しかし果たして、そんな夢のようなことがあり得るのだろうか。(一部抜粋)

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