iPhoneにアプリをインストールするにはアップルが運営するApp Storeを経由する必要があります。独占的なアプリ配信サービスの現状を問題視した政府のデジタル市場競争本部が、第3者へのアプリストア開放を義務づける動きを見せ、アップル側は異議を申し立てました。今回のメルマガ『石川温の「スマホ業界新聞」』で、ケータイ/スマートフォンジャーナリストの石川さんは、Androidのデータからも、アプリストアを開放させる意義はほとんどないと指摘。政府や役人の「お手柄」のために、安全性を犠牲にするなと訴えています。
政府のアプリストア開放義務づけにアップル「異議申し上げる」──新規参入には経済合理性薄く、法整備も「形骸化」か
政府のデジタル市場競争本部は6月16日、「モバイル・エコシステムに関する競争報告書(案)」を公表した。「アプリの決済手数料が高い」ということから、外部のアプリ配信ストアをiPhoneに設置できるように求めたものだ。
しかし、iPhoneに向けたアプリはアップルが審査をしており、安全性が確保されている。外部の配信ストアからアプリが流通するとなれば、ユーザーの個人情報やプライバシーが脅かされる危険性がある。デジタル市場競争本部から出された報告書(案)に対して、アップルが声明を発表している。
「Appleは、事業を展開するすべての市場においてイノベーション、雇用創出、そして競争を生み出すエンジンであることを誇りに思っています。日本だけでも、iOSのアプリ経済圏は約100万人の雇用を支え、大小さまざまなアプリ開発者が世界中のユーザーに到達できることを可能にしています。
私たちは、この度の報告書に記載された多くの提言に謹んで異議を申し上げます。これらの提言は、ユーザーのプライバシーとセキュリティを保護し、すべてのアプリ開発者のための健全なエコシステムをサポートするAppleの持てる力を危険にさらすことになります。私たちはこうした懸念に取り組むため、日本政府と建設的な話し合いを続けてまいります」
外部のアプリ配信ストアが参入することで、本当に競争など起きるのか。実はわかりやすいデータが同じ報告書内に載っている。第3者でもアプリ配信ストアを運営できるAndroidでは、Google Playがダウンロード数で97.4%という圧倒的なシェアを誇っている一方で、Amazon AppStoreが1.2%、Galaxy Storeが0.4%、HUAWEI AppGalleryが0.8%しかないのだ。
端末メーカーが自社ユーザーのためにアプリ配信ストアを作ったとしても、ほとんどのユーザーがGoogle Playしか使っていない。なぜ、こんなわかりやすいデータがあるにもかかわらず、デジタル市場競争本部は「外部配信ストアがあれば競争が促進され、手数料の引き下げや安全性が向上する」なんて、夢を見ているのだろうか。
アプリ配信ストアを運営するにはアプリの審査などのコストが当然かかってくる。収益性の面からみて、どう考えても外部配信ストアを運営したところで儲かるとは思えない。そもそも、新しいアプリなんて、そんなにダウンロードされなくなっているのに、いまさらアプリ配信ストアに新規参入するメリットなんてないだろう。今の段階で、法整備が形骸化する悲しい未来が見えている。
政府としては「アップルに対して規制をかけてやった」という手柄さえ取れればいいのかもしれない。法整備ができさえすれば、あとは外部配信ストアができようができまいが、お構いなし。政府や役人の手柄、名誉、昇進のためだけに、国民のiPhoneが危険にさらされるなんて、勘弁して欲しい。
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