2.「失われた30年」は「獲得した30年」
失われた30年を株価で見ると、1989年の大納会でつけた3万8,915円から30年間回復できませんでした。百貨店の売上で見ると、1991年の9兆7,000億円がピークで、2021年は4兆4,000億円と、半分以下になっています。店舗数も268店から、189店に減りました。
見事な衰退っぷりです。最近の日本は「衰退途上国」と呼ばれているとか。
しかし、物事には必ず両面があります。この30年間、日本人は本当に何もしていなかったのでしょうか。ただただ、負け犬根性に凝り固まって、怠けていたのでしょうか。そんなことはありません。バブルが崩壊しても相変わらず、真面目に働き続けていました。それは日本人が一番良く知っています。
バブル崩壊で、私たちは経済のために生きることの愚かさを知りました。日本経済が成長しても、私たちは幸せにはなれない。日本経済が衰退しても、私たちが幸せになればいいのです。
会社の業績のために、一生懸命仕事をしても、給料が増える以上に仕事が増えます。家族や恋人との時間が奪われ、ストレスが溜まり、健康を損ないます。
会社の仕事は、生活費を確保するためと割り切り、自分の好きなことをする方が幸せになれる、と考える人が増えるのも当然でしょう。
そういう選択をする人が、「失われた30年」で増えました。経済的には失われても、個人にとっては「新たに獲得した30年」かもしれません。
3.経済を失い、文化を獲得する
バブル経済の絶頂期、日本人は嫌われていました。当時、欧州のブランドショップに団体で押し寄せ、爆買いしていました。その下品で傍若無人な振る舞いに対し、ヨーロッパの人達は嫌悪感を感じていました。
バブル崩壊後、日本人観光客はマナーも良くなり、ブランド商品ではなく、ストリートファッションをセンスよく着こなすようになりました。
1998年、フランスで開催されたFIFAワールドカップの時に、日本人サポーターがフランスに押し寄せると、「最近街角でセンスの良い東洋人を見かけるんだけど」と、噂になったほどです。
多くの日本人は、バブル崩壊後に落胆するのではなく、自らの生活を見直し、反省しました。拝金主義を恥じ、分不相応な贅沢をやめました。バブル崩壊後の激安ブームは、日本人の気持ちの反映でもあったのです。デフレ経済に苦しみましたが、それは贅沢なバブル生活を反省し、自粛する期間でもあったのです。
会社のため、国の経済のために努力するのではなく、自分自身のために努力する。その典型的な存在がオタクでした。経済成長時代のオタクには、悪いイメージがありました。しかし、経済が衰退していく中で、オタクの存在は見直され、良いイメージに転換しました。特定の好きなことに集中する純粋な人たち、というイメージです。
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