朝日新聞の第三社会面にひっそりと掲載された記事
種雄さんの姉たちは言う。「弟が死んだ当時、なかなか捜査してもらえず、諦めるしかないのかと、心にしまったまま生きてきた。警察が再捜査してくれるとは夢にも思わなかったが、1年足らずで捜査が終了してしまった」「弟は28歳で時が止まった。なぜ死ななければならなかったのか、真実が知りたいです」
木原氏は文春の記事に対し「事実無根の内容で、人権侵害だ」として、文藝春秋社などを刑事告発する意向をちらつかせているが、姉たちは「事実無根ではありません。訴えるのではなく説明してほしい」と話した。
安田種雄さんの遺族の記者会見は司法記者クラブで行われた。クラブ会員である主要メディアの記者からの質問は、幹事社の共同通信くらいのもので、ほとんどフリーランスか、ネットメディアからの質問だった。
記者会見によって、これまで文春報道を見て見ぬふりしてきた大手メディアや地方紙などがどう反応するかが注目されたのだが、やはり権力のど真ん中にいる現職の官房副長官がらみの案件だけに慎重な姿勢を崩せないようだ。
この会見を記事にした大手メディアは共同通信だけで、それもベタ記事ていどの中身だ。その配信を受けて、記事をそのまま掲載したのは全国紙では産経新聞のみ。地方紙では東京新聞など30紙ほどが掲載したが、不掲載の地方紙も15紙以上あった。共同の記事全文は以下の通りだ。
2006年に東京都文京区の自宅で遺体が発見された男性=当時(28)=の遺族が20日、都内で記者会見し、自殺と扱われたが不審点があるとして警視庁に17日、再捜査を求める上申書を出したと明らかにした。
週刊文春が、男性は木原誠二官房副長官の妻の元夫で、妻にも事情を聴いていたなどと報じていた。木原氏は代理人弁護士を通じ「週刊文春の私と私の家族に関連した記事は事実無根」とするコメントを出している。
会見には、死亡した安田種雄さんの父親(70)と姉2人が出席し「真実が知りたい」と涙ながらに訴えた。遺族側によると、18年に警視庁が再捜査に着手したが、その後に事実上終了したという。
これでは、読んだとしても、ポイントがよくわからない。このニュースの本質は、未解決事件を警視庁が再捜査し、他殺の疑いが出てきたが、なぜか途中で打ち切った。そこに、木原氏が自民党の有力国会議員であることが関係しているのかどうかである。では、なぜ載せる社があるかといえば、この先、世論に押されて警察が捜査をやり直した場合への備えということなのだろう。
朝日新聞は、安田さん遺族の会見を報じなかったが、別の方法でこの事件を取り上げた。25日の第三社会面に、ひっそりと掲載されたこの記事。
木原誠二官房副長官の妻の代理人弁護士は、週刊文春の報道で人権侵害が起こる可能性があるとして、発行元の文藝春秋を相手に、日本弁護士連合会に人権救済を申し立てたことを明らかにした。申し立ては21日付。(後略)
この文章に続き、「(週刊文春は)木原官房副長官の妻である女性が、警視庁に任意で事情聴取されていたなどと報じた」と、ごく簡単に事実関係を記している。これも、警察の姿勢を忖度しつつ、再捜査にもそなえ、既報の実績をつくったものだろう。
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