「悪あがきはやめろ」米国が中国のスパイ気球を撃墜したウラ事情

 

当然ながら、偵察衛星に匹敵する情報収集機能も中国軍の能力を飛躍的に向上させることになる。

そのひとつは空母キラーと呼ばれる対艦弾道ミサイルだ。中国の空母キラーの脅威は10年以上前から米国で叫ばれてきたが、その実、中国が海に向かって発射実験を行ったのは2020年8月のこと。それも空母並みの速力で移動する目標に対するものではなかった。それまでの10年以上、中国はゴビ砂漠に設置した米空母を模した同様の大きさのコンクリート製の標的に弾道ミサイルを撃ち込み、タクラマカン砂漠に敷設した線路上を移動する標的に照準する訓練を繰り返してきた。洋上を移動する目標に向けて発射できなかったのは偵察衛星の能力不足が原因だった。

洋上を航行する空母の速力は通常30ノット(約55キロ)以下だが、これを継続的に追尾しようとすれば地球を取り巻く3組の極軌道上に各25機ほどの偵察衛星を周回させる必要があるとされてきた。洋上の移動目標に発射できなかったのは、そのような能力が中国には備わっていなかったからだ。しかし、一定空域にこれまた必要数の気球などの飛行体を滞留させれば、その戦域で行動中の米空母を継続的に追尾できる訳で、空母キラーで攻撃することが可能になる。

新たな脅威として各国が対策に腐心している極超音速滑空体についても、日米が低軌道上に小型衛星をくまなく配置する衛星コンステレーションで監視・追尾しようとしているのに比して、必要な空域に飛行体を滞留させることによって低コストで同等の効果を得ることができる。

このように、気球などの飛行体を活用する中国の動きは、どこまでも戦略的だといってよいだろう。

私がこれまで指摘してきたように、中国が台湾本島占領に必要な兵力を輸送する3,000万トン~5,000万トンの船腹量を確保できないことは変わらない。しかし、狙い通り飛行船や気球が戦力化されるようになれば、中国は台湾周辺での軍事的能力を飛躍的に高めることは間違いない。

米国は、このような中国の軍事的動向をかなり正確に把握していたと考えてよい。

そしてタイミングを見計らうようにバーンズCIA長官は2月2日、習近平国家主席が2027年までに台湾侵攻能力を備えるよう軍に指示した、とジョンズ・ホプキンス大学での講演で暴露して見せた。根拠こそ明かされなかったが、それまでの海軍高官が議会証言で煽った台湾有事論とは異なるリアリティを感じさせるものだった。

それから2日後、米国はそれまで「泳がせ」ていた気球に世界の耳目が集まるよう仕向け、破壊してみせたのだった。

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