実を言えば、米国は2013年頃から「即応ラプター・パッケージ」と呼ばれる空母キラー対策を備えてきた。根拠地はアラスカのエルメンドルフ空軍基地。パッケージはF-22ラプター戦闘機4機とC-17輸送機1機。これに要員と資機材を載せ、中国の弾道ミサイル攻撃から生き残った離島などの飛行場に緊急展開し、空母キラーを支援する中国の中継機、無人機、気球・飛行船を撃破する構想である。
今回の気球事件で、アラスカとカナダ・ユーコン準州で活動したF-22からは、エルメンドルフに展開する即応ラプター・パッケージの姿が浮かび上がる。
そう考えると、米国が気球など飛行体の展開による中国の軍事的能力の向上を阻止する有効性を実証したという見方も可能になるのだ。中国がサイドワインダーなど空対空ミサイルに対抗するために気球などの高度を上げれば、さらに長射程の空対空ミサイルを発射して破壊するだろう。
今回の気球破壊劇は、軍に台湾侵攻準備を指示したとされる習主席への「悪あがきはやめろ」という強烈なメッセージの側面があることを忘れてはならない。
そして、日本国民が知っておくべきは中国の気球など飛行体の能力が期待されているのは台湾や尖閣諸島周辺の戦域であり、それを阻止するために米国も即応ラプター・パッケージを南西諸島などに展開する準備を整えているという現実である。成層圏をめぐる米中の見えざる闘いは日本列島上空でも展開されているのだ。
(静岡県立大学特任教授 軍事アナリスト 小川和久)
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