北京に溜まるはずの水は河北省に流したから大丈夫だ、というのだ。こんな話を聞かされれば反射的に浮かんでくるのは、犠牲となった河北省の人々の怒りだ。彼らは黙ってはいないだろう。しかし友人らは、「いや、そんなことはない。首都が水没した場合のダメージを考えれば仕方ないと納得しているはずだ」というのだ。
被災した河北の人が本当にそれほど物分かりの良い人々なのかは、水害が落ち着いてみないと判じられない。しかし興味深いのは、地元のメディアも一斉に、首都を洪水から守るため河北省に水を流したというからくりを誇らしく報じ始めたことだ。例えば上海の衛星テレビ、東方衛視のニュース番組『東方新聞』(8月2日)だ。
同番組のキャスターは、「北京市や天津市の洪水を緩和するため、河北省の7カ所(永定河泛区、小清河、蘭溝窪、献県、寧晋泊、大陸沢)に水を流しました。河北省では123万人を避難させましたが、誘水池となるタク州市には大量の水が流れ込む予定です」と説明した。誘水区(地)とは日本では聞き慣れない言葉だが、要するに洪水を一時的に停滞させるための低地や湖を指す。
番組内でコメントした河北省水利庁の李娜副庁長は、「誘水地を使ったわれわれの洪水対策は、やはり効果があったと思います。もし小清河分洪区と蘭溝窪分洪区という誘水地がタク州市になければ、その下流にある雄安新区や天津市は大きな被害が避けられなかったはずです」と説明した。
つまり集中豪雨などを警戒し、首都を救うために河北省に水を流すことはあらかじめ想定されていたのである──
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2023年8月6日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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