側近さえも理解不能。プーチン大統領の頭に「終戦」の二文字はあるのか?

Belgrade, Serbia - January 17, 2019 : Vladimir Putin, the President of Russian Federation in press conference at the Palace of Serbia after a working visit - Image
 

ウクライナ戦争を泥沼化させるバックテーブルのジレンマ

同様のことは、現在進行形のロシア・ウクライナ戦争でも言えるように思います。

“停戦”という文言は、実は2022年2月24日以降、何度も聞かれ、特にロシアによるウクライナ侵攻直後はよく話題になりました。トルコによる仲介努力もその頃に起こり、実際にロシア・ウクライナ双方が顔を合わせて停戦協議を行ったこともありましたが、双方の主張と要求が平行線をたどる中、戦線の拡大と戦況の激化が起こり、これまでのところ、言葉としては出てくるものの、停戦に向けた協議は開かれておりません。

国際会議の場や別の機会に非公式な形でロシアとウクライナ当局の接触と直接対話を実現させてはいますが、双方とも、自国内でまとまらない方針に惑わされ、足を引っ張られて、前向きな提案を出来ずにいます。

私は交渉やコミュニケーション、調停のトレーニングを担当する際、そのようなジレンマを“バックテーブルによる妨害”と呼んでいますが、現在のロシア・ウクライナ戦争の泥沼化は、実際にこの“バックテーブルのジレンマ”が一因になっているように思います。

どのような理由であったとしても、武力を用いて他国に侵攻するというのは許されませんし、ロシア政府にもその旨、何度も繰り返し強調していますが、ロシアによる侵攻後、ウクライナ東南部に居住するロシア系住民に対するウクライナ政府による迫害の激化を正当化することもできません。

今回の戦争も、最近の紛争と同じく、民間人を巻き込み、時には意図的にターゲットにするような性格が強くなってきているように思いますが、このような行動を“反転攻勢”の名の下に実行するナショナリスト勢力はウクライナにおける対ロシア反転攻勢の意義と大義を濁らせ、そして挙国一致での抵抗を阻害しているように見受けられます。

そこにウクライナ国内に根強く存在する親ロシア派勢力が対峙して、ナショナリスト勢力と内紛を繰り返す状況も繰り返されており、そのどちらにも属さないマジョリティーのウクライナ国民を犠牲にしています。

このように国内で反目する勢力が拮抗する状況が強まってくるにつれ、ゼレンスキー大統領をはじめとするウクライナ政府が使うことが出来る【停戦のためのカード(選択肢)】は日ごと少なくなってきていて、残されているのは、“徹底抗戦”しかない状況と思われます。

ではロシア側はどうでしょうか?

ロシア国内、そして軍の中にも、もちろん勢力の対抗状況は存在しますが、ウクライナのゼレンスキー体制に比べ、20年超の統治をおこなうプーチン体制の影響力の国内や軍に対する浸透は思いのほか高いレベルのまま推移していますが、プーチン大統領の影響力が強すぎて、現場にクリエイティブな解決策を探る権限は与えられておらず、仮に停戦協議を開催することが出来ても、交渉チームの手足は縛られている状態で、前向きな議論を期待することは非常に難しい状況です。

そして何よりも、プーチン大統領の側近と言われる人たちも含め、プーチン大統領が実際に何を考えており、何を求めているのかを理解できていない様子で、プーチン大統領が停戦に向けて提示する諸条件がどこまで堅いものなのか(言い換えると交渉不可能なものなのか)分からないように見えます。

そのようなこともあり、国際会議の裏側やマージンで非公式・非公開で開催する協議においても、ロシア側は同じ内容をおうむ返しに繰り返すだけで、進展はなく、ウクライナ側も大統領が示した停戦協議開始のための条件、つまりロシアによる侵攻前の状況に戻すことのみならず、2014年のクリミア併合以前の状況に戻すことを求める以外、発言が許されていないようで、非公式な形式を取っても、話し合いは平行線をたどっています。

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