側近さえも理解不能。プーチン大統領の頭に「終戦」の二文字はあるのか?

Belgrade, Serbia - January 17, 2019 : Vladimir Putin, the President of Russian Federation in press conference at the Palace of Serbia after a working visit - Image
 

戦争のエスカレーションを懸念するNATO各国

しかし、このような外交交渉“ゲーム”に明け暮れているのと同じ時に、ウクライナ国内の前線では人々の生命が日増しに奪われており、それが実際にはロシア軍サイドの最前線も、ウクライナ軍サイドの最前線においても、戦闘員の戦意喪失を加速させています。

これまでの攻防とは違い、両勢力とも、物理的なコンタクトは可能な限り避け、無人ドローンや精密誘導型ミサイルなどの“飛び道具”を用いた戦いに移行していますが、それは戦略的なアップグレードというよりは、形式的に、そして機械的に戦争を遂行しているに過ぎない状況と形容できるようになってきています。

そのような中、精密誘導兵器を用いているにもかかわらず、民間人の被害者の数は激増しており、戦争が軍事的なものから相互破壊・壊滅を目指す消耗戦に性格を変えてきているように思われます。

今週、ロシア軍はウクライナ・ポーランド国境に近いリビウ周辺をイスカンデルミサイルで集中攻撃し、市民インフラを徹底的に破壊すると同時に、NATOサイドから提供される物資の輸送経路の破壊を再開しています。

ウクライナ側は、最近まで控えていたロシア領内への攻撃、そしてモスクワへの攻撃を一気に増やしており、それらの攻撃はロシアの一般市民を巻き込んだ凄惨な攻撃になってきています。

ちなみにNATO各国はこの紛争のエスカレーション状況を非常に懸念しており、ロシア国内でプーチン大統領が抑えて宥めている超過激派・強硬派の勢力の「核兵器の使用やむなし」という声が高まり、以前、改正したロシアの核使用ドクトリンの適用の要請が高まってくる際、この戦争は一気に性格を変え、NATO各国を半強制的にロシアとの全面戦争に引きずり込みかねないことを、これまで以上に懸念し始めています。

今週、ストルテンベルグ事務総長の側近が「停戦を実現するためには、ウクライナは領土を放棄するしかない」と述べ、ウクライナからの集中砲火を浴びたという報道がありますが、NATO内では、実際に、ロシアとの直接的な対峙と戦闘を回避することを至上命題に掲げ、ウクライナをNATO加盟国の盾に用いようという意見が強まっているという声を複数聞いています。

特にNATO加盟国内におけるウクライナ支援疲れと反発は政府に大きなプレッシャーとしてのしかかり、そのプレッシャーがウクライナのゼレンスキー大統領に向けられるという傾向が強まっていますが、当のゼレンスキー大統領はロシアからの侵略に徹底的に抗戦し、自らが大統領就任時に約束したように、クリミア問題を含み、ロシア問題を解決することにこだわるしか選択肢がなくなっており、国内にいるナショナリスト勢力の伸長を押さえるためにも、強気の姿勢を崩すことが許されない状況のため、ウクライナ・NATOサイドでも、具体的な出口を見つけることが出来ない状況にあります。

そのような中、来年秋に大統領選挙を控えるアメリカでは、ニューヨークタイムズやワシントンポスト、そしてCNNの世論調査でも示されたように、国内で高まるウクライナ支援停止に向けた声を意識せざるを得ず、バイデン政権にとって、「ウクライナ・カードを米国内で根強い反ロシア勢力のboostにいかに使うか」、それとも「どこかの段階でウクライナを切り捨てるのか」という選択をせざるを得ないタイムリミットが迫っているようです。

アメリカはウクライナに年内の“一時停戦”を求めていますし、フランス・ドイツも軍事支援は続けているものの、ロシアをあまりプッシュしすぎないことと、ウクライナが、自国が提供した兵器・装備でロシア国内を攻撃し、自国が対ロ戦争に直接的に巻き込まれることを嫌い、ロシアとウクライナ双方とのコミュニケーションチャンネルを作り、何とか停戦に持ち込み、停戦後のウクライナ作りにおいて主導権を取るべく、働きかけを行っています。

この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ

初月無料で読む

print
いま読まれてます

  • 側近さえも理解不能。プーチン大統領の頭に「終戦」の二文字はあるのか?
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け