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なぜ、韓国ではこんなにも死刑執行がされないままなのか?

1997年以降、死刑が確定するも執行が行われていない韓国。しかし最近、死刑執行施設の点検を命ずる指示が入ったと報道されています。今回の無料メルマガ『キムチパワー』では韓国在住歴30年を超える日本人著者が、現在の死刑執行を待つ囚人たちと韓国世論はどうなっているのかを紹介しています。

死刑執行施設を点検せよ

韓東勳(ハン・ドンフン)法務長官が最近、死刑執行施設を備えた全国の4つの矯正機関に「死刑執行施設を点検せよ」と指示したことが29日、分かった。

国内では1997年以降、死刑執行が行われていない。このため拘置所や刑務所にある死刑執行施設は、これまで事実上放置状態だった。全国矯正機関の中で死刑執行施設があるところはソウル拘置所と釜山拘置所、大邱(テグ)刑務所、大田(テジョン)刑務所の4か所だ。ハン長官は先週、この4か所に対して「死刑制度が存続している状況だから施設維持をきちんとしろ」と指示したと伝えられた。

韓国は死刑制度を維持しながらも長期間死刑執行をせず「実質的死刑廃止国」に分類されている。金泳三(キム・ヨンサム)政府時代の1997年12月、死刑囚23人に対して死刑執行をしたのが最後だった。翌年2月に発足した金大中政府から現在まで死刑執行は1件もなかった。

最近、新林(シンリム)駅・ソヒョン駅での凶器暴動(出刃包丁などを振り回し人を刺す)、新林洞(シンリムドン)公園での性暴行殺人事件など凶悪犯罪が相次いで発生し予防策が議論され、一部では「死刑執行の中断が『死刑が廃止された』という誤った信号を犯罪者に与えている」という指摘が提起されている。

ハン長官の今回の指示について法曹界では「今すぐでなくてもいつでも死刑執行ができるという可能性を開いておいた」という分析が出た。これと関連して法務部関係者は「ハン長官が『死刑制度が存続している状況で法執行施設が適正に維持管理されなければならない』という趣旨で指示を下したと理解している」と明らかにした。死刑執行を前提にした指示と見るのは早いという話だった。

刑事訴訟法は「死刑は法務長官の命令により執行する」と規定している。法務長官が死刑執行命令を下せば、矯正機関の施設で絞首刑方式で死刑を執行することになる。


現在死刑が確定しているが執行されていない収監者は59人だ。その中でも有名なのは、ユ・ヨンチョル、カン・ホスン、チョン・ドゥヨンのような連続殺人犯らだ。筆者も彼らの名前には記憶がある。

ユ・ヨンチョルは03年から04年までソウル市内で17回にわたって老人と婦女子21人を連続殺人し、放火、死体遺棄などの犯罪を犯したことが分かっている。被害者の遺体11体をバラバラにして埋葬し、3体を燃やすなど犯行方式も猟奇的だった。ユ・ヨンチョルは捜査過程で「検挙されなければさらに100人も殺害していただろう」「死体臓器の一部を食べた」と供述したことが知られ公憤を買ったものだ。ユ・ヨンチョルは裁判所が証拠が十分でないとして無罪と判断した殺人事件1件を除いて20人に対する殺人容疑が認められ死刑が確定された。

カン・ホスンは妻と義母など女性10人を殺害した疑いで09年起訴された。カン・ホスンは1審で、2005年に義母の家に火をつけて妻と義母を殺害し06年から08年まで婦女子8人を拉致して殺害した疑いが認められ死刑を言い渡された。カン・ホスンは保険金を受け取る目的で義母の家に火をつけたことも分かっている。カン・ホスンは09年の2審でも死刑を言い渡されたが、最高裁に上告せず死刑が確定した。

チョン・ドゥヨンは1998年から2000年まで釜山(プサン)と慶尚南道(キョンサンナムド)、大田(テジョン)などで強盗殺人など23件の犯罪を犯し、老人と婦女子9人を殺害し、10人を負傷させた疑いで起訴され、01年死刑が確定した。

彼らは収監態度も不良だという。そのうちの1人は刑務官暴行も犯したという。チョン・ドゥヨンは大田刑務所に服役中だった2016年、作業用プラスチックパイプを連結して作ったはしごで刑務所の塀を越えようとしたが発覚したりもした。

ユ・ヨンチョルは大邱刑務所に、カン・ホスンとチョン・ドゥヨンはソウル拘置所に収監されている。ある法曹人は「この凶悪犯たちが法務部が死刑執行施設を補修したという知らせを聞いて緊張していると聞いている」と伝えた。


死刑制に対する世論は「存続しなければならない」という方が優勢な状況だ。2021年の韓国ギャラップ世論調査で回答者1,007人中779人(77.3%)が死刑制を維持しなければならないと答えた。また、死刑維持意見(779人)のうち95.5%は凶悪犯には死刑を執行すべきだと答えた。

憲法裁判所は1996年と2010年の死刑制度に対して2度合憲決定を下した。以後、死刑制廃止に対する3度目の憲法訴願事件が受け付けられ、現在憲法裁判所が審理中だ。ある法曹関係者は「最近の憲法裁裁判官構成の変化、凶悪犯罪に対する世論などを勘案すれば、今回の憲法訴願事件でも違憲決定が出る可能性は低い」と話した。

一方、死刑制度廃止論は生命尊重、教化の可能性などの側面で提起されてきた。また誤審の可能性を考慮すると、死刑執行は一度実行すれば取り返しがつかないため、死刑制度は廃止されるべきだという主張も出ているわけだ。これに対してある法曹人は「10人以上殺人し教化もされていない凶悪犯は論外にしなければならないのではないか」として「ユ・ヨンチョルなど連続殺人犯は犯行を自白し誤審の危険性もない」と話した。

実際、ここ最近の凶悪犯罪を見ていると、死刑の執行が望まれるという思いはほぼ全員の韓国人が持っているはずだ。(朝鮮日報ベース)

(無料メルマガ『キムチパワー』2023年8月30日号)

image by: Shutterstock.com

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韓国暮らし4分1世紀オーバー。そんな筆者のエッセイ+韓国語講座。折々のエッセイに加えて、韓国語の勉強もやってます。韓国語の勉強のほうは、面白い漢字語とか独特な韓国語などをモチーフにやさしく解説しております。発酵食品「キムチ」にあやかりキムチパワーと名づけました。熟成した文章をお届けしたいと考えております。

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【著者】 キムチパワー 【発行周期】 ほぼ 月刊

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