ではなぜ大企業がユーザー調査に多大なお金を払うかと言うと、責任者が自分で新たなサービスや商品を考えられず、意思決定の責任を負う気概がないからです。はっきりいうとオーナーではないからです。
上述のように革新的なアイデアや製品は、アメリカの企業や日本でも成長しているベンチャーなどではトップ自ら意思決定するのが普通です。もちろんユーザー調査なんてせずに、実績に基づくセンスで確実に売れると思って、自分で責任を負う覚悟で意思決定します。
かたや、主だった日本の大企業のトップや管理職は、サラリーマン上がりで、自らイノベーションに挑んだ経験も、リスクを取った意思決定をした経験もない人たちが大半です。自分で新たなビジネスを創った経験のない雇われた経営者や管理職者は、自ら商品や新たな価値を発想・企画することもできず、周囲の反対を押し切って商品化するほど信念も持てません。
そこで、ユーザー調査の結果や、コンサル会社に依頼して出てきた提言を拠り所にして、商品を企画したり意思決定をしてしまうのです。そして、コンサル会社もその会社の事業については素人で、お金をもらって提言する背景もあるので感覚ではものを言えず、自分の主張を裏付ける事実が必要なのでユーザー調査をするのです。こうしたユーザー調査はアンケートの設問設計と集計次第でいくらでも結果を左右できるので、どんどん恣意的で意味のないものになっていきます。
これってつまり、実績とセンスと自信と覚悟のない人たちが「消費者が言っているから」ともっともらしい理由を用意したいからユーザー調査をしているだけです。日本企業の意思決定力・競争力が落ちていることの象徴ともいえるでしょう。
まだ競争力が維持されている自動車などは、商品設計に8年以上の長い期間を要するので、ユーザー調査して「どんな車に乗りたいか」なんて聞かずに商品を造っているから未来があるんじゃないかと思います(ちなみに自動車業界もゴーン元会長などは自らフェアレディを復活させるなどの意思決定をしていますね)。
もちろん、そもそもいくらのお金が動いているか・利用者がいるかなど基礎的な市場データを得ることは必要ですが、商品開発や重要な意思決定のために顧客調査・ユーザーインタビューを参考にするなんて、失敗するだけでお金の無駄だと思いますね。わたしも過去の案件で大ヒットしたものは調査なんてせず絶対成功するといって進めましたし、調査のお金は広告などに回しています。
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