10月1日から開始されたインボイス制度。同制度の導入を巡っては直前までフリーランサーが反対の声を上げ続けるなどまさに大混乱となりましたが、その原因はどこにあるのでしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では米国在住作家の冷泉さんが、官僚と野党議員、そしてメディアの三者に責任があるとしてその理由を解説。さらに「インボイス問題」をどう解決してゆくべきかを考察しています。
※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2023年10月3日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
「ご存知ですかキャンペーン」の不毛。インボイス導入の混乱を招いたもの
制度が変わる時は、いつもそうなのですが、国会に制度改定が提案されて論戦が行われる際には、国民に対して詳細は説明されません。その代わりに、実際に法案が可決して制度が実施される時になって大騒ぎになるのです。
例えばですが、監督官庁は広告代理店に多額の税金を払って「ご存知ですか?」というキャンペーンをやったりします。また、同時にマスコミもこの時点になって「混乱だ」とか「困る人が出る」などと騒ぐのです。
ここ20年、いや40年ぐらい同じことの繰り返しと言っても良いと思います。消費税の導入、後期高齢者保険、子育て制度、そして軽減税率に今回のインボイス、いつもそうです。法律を審議している時は、世論を刺激するような報道は伏せられて、法案が可決成立し実施段階になって「ご存知ですか?」キャンペーンを行う、こればっかりです。
主権者をナメているというのもそうですが、これでは民主主義の利点である決定への全員参加による合意形成ということが成り立っていないと思います。
一体誰が悪いのでしょうか?
独自の正義感と優越感を持った中央官庁の官僚たち
1番目は中央官庁の官僚です。彼らは独自の正義感と優越感から、自分たちが立案した新しい制度は「国のためになる」と信じて疑っていません。ですから、野党議員がいちいち自分たちの提案した法律案にイチャモンを付けたりするのは面倒であり、サッサと法案を通して欲しいと思っているのです。
さらに言えば、中央官庁の官僚は制度を管理するのが仕事であり、実際に制度変更が実施される場合に困る現場、つまり各自治体や官庁の窓口の人々がどう困るのかなどには、そんなに関心はないと思います。
また今回のインボイス問題について言えば、財務省としてはそもそも「軽減税率」などやりたくなかったはずです。それを公明党などがねじ込んできて、10%に統一すればいいのに8%も残って税率が複数になったわけです。
財務省としては、それで実務が面倒になるなど「知ったこっちゃない」という感覚もあるでしょうし、さらに言えば「8%に削減されて減った税収を、捕捉強化で取り戻す」ことも考えたに違いありません。
欠陥人材が多い野党議員たち
2番目は、野党議員です。今回のこともそうですが、行政の窓口がどう困るのか、それ以前の問題として納税者は、中小事業者はどう困るのか、世間を知らない議員の多い野党には、問題を聞き出す能力も、聞いて問題の根深さを理解する能力も欠けているのだと思います。
野党と言えば、経済活動とは無縁で利益の追求は悪だなどという、全くおかしな宗教に染まっている人とか、政治も経済も「塾で学んだだけ」という立身出世そのものが目的化している欠陥人材が多いわけで、これでは制度変更に困る国民の代弁はできないのも当然だと思います。
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