真実を伝えぬNHK、不利なことも伝えるBBC。ジャニーズ報道でわかった「大きな差」

2023.10.27
 

権力に媚びることなどありえない英国のジャーナリスト

それではなぜ、BBCは「反権力」を貫き、「公益」に基づく報道を続けられるのか。私は以前、BBCなど英国のジャーナリストに面談したことがある。「英国と日本のメディアの違いはなにか?」という質問に対して、彼らの答えは以下の通りだった。

「英国は階級社会、日本は違うということです。英国ではジャーナリストは、伝統的に上流階級の仕事ではありません。昔、ジャーナリストは、新聞社の印刷所での見習い修行から仕事を始めたものでした。ジャーナリストとは、元々階級が低く、社会的地位、名誉、財産のない家庭に生まれ、学歴の低い人たちの仕事だったのです」

つまり、ジャーナリストは上流階級出身の権力者とは別の階級出身で、エリートではないということだ。だから、権力に媚びることはありえない。徹底的な権力批判ができるのだ。もちろん、現在ではジャーナリストも高学歴者だ。しかし、反権力の伝統は今も生きているのだという。

BBCにとっては、ジャニー氏の性加害の疑惑を追う長編ドキュメンタリー番組を制作し、放送するのは、実はそれほど難しい仕事ではなかったのではないだろうか。

かつて、BBCの「パノラマ」というドキュメンタリー番組で、ロンドンの大学生の北朝鮮訪問に、BBCの記者が紛れ込んで秘かに取材活動をしたことが明らかになり、大問題となった事件があった。

この番組は、潜入取材により真実に迫ることが売り物の人気番組である。筆者が英国在住の頃は、BBCの記者がサッカー選手の移籍を斡旋する違法ブローカーになりすまして、有名サッカー監督に近づき、実際に賄賂を渡したかと思わせるような番組を放送して物議をかもしたこともあった。

その取材方法の是非はともかくとして、BBCなど英国ジャーナリズムは、情報を得るためには手段を選ばず、どんなことでもやるという「強さ・逞しさ」があるということだ。

そんなBBCにとっては、ジャニー氏の番組の製作は楽勝だったに違いない。潜入取材など必要ない。日本のメディアに相手にされないが、性被害を告発したいと切に願う被害者が多数いた。彼らに正面から接触すれば、いくらでも性被害の証言を得られたからだ。

一方、ジャニー氏の性加害を長年黙殺したNHKなど日本のメディアは、権力者と徹底的に戦うことができない。日本は階級社会ではない。日本では、ジャーナリストは政治家、官僚、企業経営者などと同じ、高学歴者の仕事だ。エリート層の一角を形成しており、ある意味権力者の仲間だ。だから、権力者の側に立って報道することが多いのではないか。

NHKは、ジャニーズ事務所が加害を事実と認めた後、「多くの未成年者が被害にあう中で、メディアとしての役割を十分に果たしていなかったと自省しています。より深く真実に迫ろうとする姿勢を改めて徹底し、取材や番組制作に取り組んでまいります」という声明を出している。

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