些細な理由。大炎上した「スープストックトーキョー」の火が難なく“鎮火”した訳

Tokyo,,Japan,-,6,March,2022?soup,Stock,Tokyo,Sign
 

今年4月、離乳食無料提供サービスのアナウンスが大炎上を呼んだスープストックトーキョー。しかし程なくして、ごくあっさりと鎮火に至ります。なぜこの炎上騒動は長引くことなく収まったのでしょうか。その理由を探るのは、マーケティング&ブランディングコンサルタントとして活躍する橋本之克さん。橋本さんは今回、行動経済学の観点から「炎上鎮火の原因」を考察しています。

プロフィール:橋本之克(はしもと・ゆきかつ)
マーケティング&ブランディング ディレクター 兼 昭和女子大学 現代ビジネス研究所研究員。東京工業大学工学部社会工学科卒業後、大手広告代理店勤務などを経て2019年に独立。現在は行動経済学を活用したマーケティングやブランディング戦略のコンサルタント、企業研修や講演の講師、著述家として活動中。

大炎上スープストックトーキョーがうまく消火できた理由

スープストックトーキョーの炎上騒ぎ

「スープストックトーキョー」が、日経クロストレンド「マーケター・オブ・ザ・イヤー」大賞を受賞しました。2023年4月に起きた炎上騒動への対応が評価されてのものです。同社は当時、一部店舗で実施していた「離乳食無料提供サービス」の全店拡大を告知しました。すると子連れを快く思わない人からの意見がSNSにあふれたのです。スープストックトーキョーは1週間の沈黙後、「『世の中の体温をあげる』という企業理念に基づいてサービスを拡大する」という声明を発しました。その結果、この騒動は速やかに収束したのです。

炎上が鎮まった理由は、企業の対応や姿勢であったとされています。しかし対処療法的な対応が功を奏したと単純に考えて良いのでしょうか?鎮火の理由は顧客の深層心理を分析することで見えてくると思われます。

炎上と火消しのプロセス

通常、炎上は「ノイジー・マイノリティ」が発端です。少数の人々が不満を抱いた対象に対して、情報発信や発言を積極的に行います。それを見た多くの人々が「いいね」をする、知人に共有する、などにより拡散し炎上に至るのです。今回の件では、スープストックトーキョーに子供連れ客が増えることを嫌う既存顧客が不満を抱きました。便利な場所にあって一人でのんびりできるオアシスを失いたくないと思ったのでしょう。

しかし、スープストックトーキョーの新サービスは「子供を抱えて落ちつける場所を探す、行き場の無い若いママたちの救済」と考えることもできます。だから「ノイジー・マイノリティ」以外は、正面切って反対意見を述べなかったのではないでしょうか。子連れママの来店も理解できるのです。その一方で自分のオアシスを守りたいという気持ちもあります。そんな葛藤の中で行った「いいね」や「共有」などのささやかな行為が、結果的に炎上を後押しする結果になったのでしょう。

鎮火の原因は何か?

しかしある時から「離乳食無料提供サービス」に反対するSNS上の広がりが減少し、炎上は収まりました。それはなぜでしょう?

ひとつには、スープストックトーキョーの「世の中の体温を上げる」という企業理念に消費者が賛同したとする見方があります。この他に、過去にベジタリアン対応やハラル商品開発など、マイノリティのサポートで社会に貢献してきた経緯が影響したのだ、という主張もありました。

しかしこれらが、店内が騒がしくなり、居心地が悪くなるかもしれないと考える顧客を納得させる、十分な理由にはならないでしょう。せいぜい「この企業は自社利益のみを考えているのではないらしい」と考え、「あきらめて、様子を見よう」「とりあえず離乳食反対の書き込みに『いいね』するのはやめよう」と思う程度のことだったのではないでしょうか。しかしながら、「この程度」の「微妙な判断」が、炎上を鎮火したのではないかと私は考えます。

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