日本社会をじわじわと蝕む「ヘイト」だが、ついにお笑いの世界までをも侵食し始めたようだ。吉本興業所属の漫才コンビ「ゆかいな議事録」が、今年の漫才の頂点を決めるショーレース「M-1グランプリ2023」の予選3回戦で披露した、中韓を揶揄するネタの内容が物議を醸している。件の漫才はM-1グランプリの公式動画でも視聴可能だが、ネット上では「笑えない」という声も多いようだ。そんな「ネトウヨ漫才」を舞台にかけることを許している吉本興業は、安倍政権時代から自民党との、そして大阪発祥の日本維新の会との距離が極めて近いことでも知られている。彼らは何の意図があってお笑いにヘイトを持ち込み始めたのだろうか。
ボケ担当には選挙活動の手伝いをしていた過去が
「ネトウヨ漫才」が披露されたのは、11月8日に東京神田のKANDA SQUARE HALLで行われたM-1グランプリ2023の予選3回戦。2020年結成の「ゆかいな議事録」は、今回が初めてのM-1予選3回戦進出だったという。この日のネタはボケ担当の山本期日前が、相方の長島聡之に向け次々と中国ヘイトを繰り出すという内容で、漫才というよりむしろコント色の強いものだった。
吉本興業の公式HPに掲載されている彼らのプロフィールを見てみると、立ち位置左のメガネをかけた山本期日前の趣味の欄には、「選挙(全国の選挙観戦、選挙ポスター集め等)政治/ニュース/歴史/柏レイソル」とあり、M-1予選3回戦の冒頭でも長島から「選挙活動の手伝いをしていた過去があり、政治のことが大好き」と紹介されている。ネタともども公式動画で確認できる。
ヘイトではなく「表現の自由」という認識
処理水問題、密漁、アニメキャラクターのパクり、習近平、PM2.5、黄砂、韓国の反日等々、中韓ネタで笑いを取ろうと必死だったが見事にスベっている様子が見て取れる。しかし本人たちはご満悦のようで、長島は自身のX(旧Twitter)に当日、こうポストしている。
M-1三回戦ありがとうございました!!!!
ぶちかました!!!!
これが表現の自由や!!!!そんで出番終わった後すぐ選挙ポスター撮んな!!なんやねんこいつ!!!! pic.twitter.com/qD10m8ljjA
— ゆかいな議事録 長島聡之 (@Totti_Nagashima) November 8, 2023
彼らにとってはヘイトではなく「表現の自由」という認識らしい。ちなみに予選3回戦突破はならなかった模様だ。そんな「ゆかいな議事録」のネタをいち早く記事にしたのが「女性自身」だった。
● 「日本人の8割が中国嫌い」M-1三回戦での“中国揶揄”漫才が「流石に笑えない」と波紋
同記事では「とあるコンビのネタが波紋を呼んでいる」とした上で、「自分がピンチのときに、相手の怒りをより嫌いなものにそむけさせたら回避できる」から始まるネタの一部始終を紹介。その上で、「一方的に中国を批判するような内容に批判の声が集まっていた」としている。
「絵に描いたようなたいこもち」「事実ですから納得します」ネット上で割れる声
SNS上には「絵に描いたようなたいこもち。醜悪」「いよいよお笑いも日中戦争当時のそれに肉迫しつつあるということか」「お笑いとしてはどうなんだろう」といった今回のネタを非難する書き込みが多数見られるが、その一方で「事実ですから、納得します」「反日教育、歴史捏造の中国にいつまで遠慮してるのか」「タブーを笑いに変えるのが漫才や落語の芸」といった、彼らを擁護・称賛する自称ネット保守のユーザーたちもまた多い。
自民党や維新の会とは「昵懇の仲」
吉本興業といえば、2019年にはなんばグランド花月での吉本新喜劇の舞台に当時の安倍晋三首相が立つなど、自民党政権と近いことで知られるのは前述のとおりだ。
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また日本維新の会とのただならぬ関係については、かつて当サイトでもお伝えしている。
【関連】吉村知事を露骨にヨイショ。民主主義を脅かす「吉本興業」と維新の浅からぬ関係
政権与党や関西地方で隆盛を誇る政党から、何らかの便宜が図られることなどないと信じたい。
仮に、である。今回「ゆかいな議事録」の2人が披露したヘイトだらけのネトウヨ漫才が、所属する吉本興業の「意図」を汲んだものだとしたらあまりに恐ろしく、そして由々しき事態である。
ネットユーザーの中には「(政権批判ネタで知られる)ウーマンラッシュアワーの村本が許されるなら、こいつらもオッケーだろ」といったコメントを書き込む向きもいる。村本大輔も所属は吉本興業。いっそのこと、「ゆかいな議事録」の2人と新トリオを結成してみてはどうだろうか。不思議なケミストリーでノンポリ漫才に見える可能性もなくはない。知らんけど。