19年11月に、現役の介護ヘルパーが国を相手どり訴えを起こすという前代未聞の出来事がおこりましたが、裁判で明かされた原告の訪問介護ヘルパーさんたちのスケジュールは、信じがたいほど過酷でした。
朝8時30分に事務所に出勤し、5人の利用者の家を訪問し、18時40分に事務所に戻る。そこで「申し送りや翌日のスケジュール」を確認し、帰宅するのは19時。1日の給与は7,075円です。
訪問介護ヘルパーの場合(正規以外)、待機時間に対する賃金は基本的に支払われません。訪問先の移動費や事業所に連絡する電話代もすべて自分持ち、予定がキャンセルされれば事業所に支払われる介護報酬はなく、ヘルパーは無給となってしまいます。
原告の女性たちは第一回の口頭弁論で、「時間に追われ、利用者と話す十分な時間もない。やりがいも削られ、ケアの質も担保できず我慢も限界」と、訴えた理由を話していました。…まるで介護ロボットのような扱いです。
そして、それは利用者さんにとっても「まるでお人形さんのように扱われてる」と感じさせてしまうと思うのです。
多くの利用者は訪問介護ヘルパーさんとしか社会との接点のない上に、ヘルパーさんがいないと生活はできません。誰とも会わないないから会話もない。これが超高齢社会先進国日本が目指す未来なのでしょうか。
介護問題はあまりに複雑すぎて、今ここで「こうすべきだ!」と断言できるほど、簡単ではありません。しかし、まずは介護ヘルパーさんたちの働く環境を整備し、報酬を一般の企業平均まであげる、その上で「誰もが介護できるスキル」を身に付けられる教育をし、地域の人も巻き込んだ介護政策をつくるほかないと思います。
誰もが老いるし、老いるとは昨日までできていたことが、一つ一つできなくなっていくことだという当たり前の現実が、1日でも早く社会全体に広がって欲しいです。
みなさまのご意見・変革、教えてください。
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