深刻な人材不足。訪問介護ヘルパーの有効求人倍率が「15倍」という真実

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あらゆる業界で深刻化が進む人材不足。それは高齢者介護の分野においても例外ではなく、むしろその切実度は他業種を遥かに上回っていると言っても過言ではありません。そんな現状を取り上げているのは、健康社会学者の河合薫さん。河合さんは自身のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で今回、介護の現場で起きていることを紹介するとともに、問題解決のためにまず国がなすべきことを提示しています。

プロフィール河合薫かわいかおる
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

「人の顔」を忘れた介護政策

厚労省が先日公表した「2022年度介護事業経営実態調査」で、特別養護老人ホームの収支差率が、前年度比2.2ポイント減のマイナス1%、老人保健施設は2.6ポイント減のマイナス1.1%で、いずれも01年度の調査開始から初めてマイナスとなったことがわかりました。「人件費や光熱水費などの費用が増えたことが影響し、経営が悪化している」と分析されていましたが、今後は倒産を余儀なくされる事業者が増えてしまうかもしれません。

すでにその予兆は出ています。22年度の倒産件数は過去最多の143件を記録し、介護の最後の砦ともいわれる「訪問介護事業所」では、220件がこの5年間で「人手不足」などを理由に休止、あるいは廃止。介護を受けたくても受けられないといった深刻な問題に直面するのも、時間の問題といえそうです。

リクルートワークス研究所の推計では、介護職員や訪問介護ヘルパーは、30年には21万人が不足し、40年にはその倍以上の58万人が不足するとされています。一方で、総人口に占める高齢者の割合は、現在の28.1%から31.1%、40年には35%に増えてしまうのです。75歳以上高齢者に絞っても、全人口に占める割合は、2055年には25%を超える見込みです。

これって…すごいことですよ。私も25%の一人ですし…、おそらくきっと。

介護問題はこれまで何度も取り上げてきましたが、介護現場はすでに崩壊の危機に瀕しているのに、国は…どうするつもりなんでしょう。

そもそも日本が「最後は家族で!」といった日本型福祉政策に舵をきったのは1970年代です。50年以上も前です。その間、家族のカタチは変わり、高齢者は増え続けているのに、50年前の「家族政策」をとり続けている。しかも、「カタチが変わった家族」の穴を埋めてくれる「訪問介護ヘルパー」さんの待遇が悪い、悪すぎます。

そのきっかけが、2012年の介護保険制度の改定です。

訪問する時間を短縮することで、より多くの人のサービスをするという国の方針により、「生活援助」のサービスは1時間から45分に短縮され「身体介護」の時間区分に「20分未満」が新設されました。その結果、高齢者に満足なサービスもできず、一方で、ヘルパーさんの移動時間が増えてしまったのです。

この頃から訪問介護ヘルパーの人材不足は深刻化し、13年度の有効求人倍率3.29倍から、16年度には9.3倍に増え、22年度には15.53倍に跳ね上がりました。施設で働く介護職員の有効求人倍率が3.79倍ですから、その深刻さがおわかりいただけるのではないでしょうか。

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