総理への意欲満々の「あの人」に決定的に欠けているもの
13日の会見で岸田首相が浮かべた涙は、思うようにコトが運ばず、退陣も視野に入れなければならなくなった自らの境遇への悲嘆という説明ができるだろう。だが、首相の側近からは「総理は感極まっていた」とか「高揚感があった」という声も漏れ伝わってきている。これはどういうことなのか。安倍派の意向を忖度し続けてきた日々を思い、ひとまずそこから解放される喜びをおぼえたのかもしれない。自らの決断に酔った涙といえるかもしれない。
さて、先週号でも指摘したように、政局のカギを握っているのは麻生副総裁である。麻生氏は、来年の通常国会で当初予算が成立し、岸田首相が国賓待遇での訪米を実現した後、岸田首相が辞任し、新総裁の選出にいたる道筋を描いているだろう。
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これまで麻生氏は岸田氏と会食するたびに、「大宏池会構想」なる派閥合流話を持ち出してきた。もともと麻生氏は宏池会の出身だが、河野洋平氏のグループに転じ、やがて同グループを継承して今の「志公会」を率いている。麻生氏が安倍派に対抗する勢力として、志公会と宏池会を統合した「大宏池会」の実現を構想してきたのは確かだ。
茂木氏が会長をつとめる平成研と宏池会は、吉田茂の流れをくむ保守本流として、岸信介系の清和会と抗争を繰り返した歴史を持つ。田中角栄・大平正芳が協力関係にあった時代に、福田赳夫と覇権を争ったのが「角福戦争」「大福戦争」であり、自民党派閥抗争史のなかで最も激烈な戦いだった。
おそらく、岸田・麻生・茂木の三者の間では、「大宏池会」と「平成研」を中心とした政権を今後も継続させるということで、合意しているのではないだろうか。だとすると、茂木氏がポスト岸田に名乗りを上げるのが順当な流れということになる。
現に、茂木幹事長の言動に、最近、変化の兆しがある。11月27日の記者会見で、低迷が続く内閣支持率についてこう述べた。「国民の現状への不満、将来への不安が政治に向かっている。重く受け止めなければいけない」。政治の現状への不満とは、岸田首相への不満と同義である。これまでにない手厳しい意見だ。
12月18日には自民党議員のパーティーで裏金問題に触れ、「政治資金規正法の改正も含めて、透明性がしっかりと確保できるような措置を早急に検討していかなければいけない」語った。政治改革を唱え始めた岸田首相よりもさらに踏み込み、法改正にまで言及した。
自分こそが党の危機を乗り越えるリーダーだといわんばかりだ。要するに、総理への意欲が満々なのである。
だが、茂木氏には総理らしい風格が乏しい。茂木氏の“人となり”にメディアが言及するとき、必ずといっていいほど、出てくるのは「頭脳明晰」「切れ者」という言葉である。そしてまた、そのあとには間違いなく「怒りっぽい」「人望はない」が付いてくる。宰相としては致命的ともいえる評価だ。もし、茂木氏が総裁選に出馬し、世間に人気の高い石破茂氏を菅義偉前首相が担ぎあげた場合、どうなるか。ただ「選挙に有利」というだけで、石破氏を支持する動きが党内に広がらないとも限らない。
そのような事態を懸念して、麻生氏は岸田首相が乗りやすい別のアイデアを思いついたようだ。上川陽子外相を次期総裁候補に押し上げるという策だ。上川氏は有能なうえに、宏池会所属である。「初の女性総理」というキャッチフレーズも使える。そんな算段のようだが、知名度が低いし、急にどこからか湧いて出た感があって、どうにもピンとこない。
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