戦争よりも残酷な“ジェノサイド”。世界中で殺されている子供や女性たち

 

シリアというイスラエルとイランの代理戦場

今回の戦争は、今年10月7日のハマスによる「アクサーの大洪水作戦」が発端ですが、寝首を掻かれたイスラエルのネタニヤフ首相は、ハマスへの復讐のためのガザ地区への攻撃だけでなく、シリアへの攻撃も開始したのです。12月に入ってからだけでも、イスラエル軍は占領しているシリアのゴラン高原の基地から、17日にはシリアの首都ダマスカス周辺を狙って複数のミサイルを発射し、シリア軍が一部のミサイルを撃墜するという戦闘がありました。

そしてイスラエル軍は、21日までの1週間に、シリア全土の空港や石油施設や発電所などを空爆し、ダマスカス国際空港とアレッポ国際空港を機能停止にしました。現在、シリアで機能している空港は、ラタキア国際空港のみとなり、国連の人道支援活動に大きな影響が出ています。

また、23日には、トルコ軍がシリア北東部のアル・ハサカ州の複数の石油施設を空爆しました。この辺は中東情勢のややこしい部分なのですが、シリアからの難民を受け入れているトルコでも、クルド人が率いる反体制派のシリア民主軍のことは「テロリスト」として敵対視しているのです。そのため、トルコ軍はシリア民主軍が支配するアル・ハサカ州を空爆したわけです。

つまり、同じ「シリアへの攻撃」でも、シリアのアサド政権を狙ったイスラエル軍の攻撃と、シリア内の反体制派、シリア民主軍を狙ったトルコ軍の攻撃は、大きく違っているのです。でも、こうした空爆によって、最も大きな被害を受けているのは、パレスチナのガザ地区と同様に、民間人であり、必要最低限の支援物資も届かなくなった難民キャンプの子どもたちなのです。

現在のシリアが「今世紀最悪の人道危機」と呼ばれる状況に至った背景には、今年5月1日にヨルダンのアンマンで行なわれたアラブ連盟の外相会談があります。21カ国と1機構が参加するアラブ連盟は、「アラブの春」以降12年間にわたってシリアを連盟から排除して来ました。しかし、この会談にはシリアの外相も参加して、シリアのアラブ連盟復帰について話し合われたのです。そして、5月7日にエジプトのカイロで行なわれたアラブ連盟の会談で、シリアの連盟復帰を認める決議が採択されたのです。

これによって、アメリカからの攻撃を受けつつも、アラブ世界の中でも孤立しており、助けてくれるのはロシアとイランだけ。でも、ロシアのプーチン大統領は、ここ2年は自分のことで精一杯で、シリアの面倒など見てくれない。もはや頼れるのはイランだけ…という四面楚歌の一歩手前の状態だったアサド大統領は、ついに「アラブ連盟」という大きな味方を得たのです。

一方、シリアに経済制裁を加え続けて来た欧米諸国は、政権が交代したのならともかく、独裁者アサドが牛耳ったままのシリアがアラブ連盟に復帰することなど許せるはずがありません。特にアメリカは、2017年に当時のトランプ大統領がシリアの空軍基地に59発のトマホークミサイルをぶち込んだ記憶も新しいほど、アサド政権を憎んでいます。これは、民主党のバイデン大統領に代わっても同じでしたし、来年、またトランプ大統領に代われば、さらに激化します。

結局、シリアという中東の国は、アメリカとロシアの代理戦場であり、イスラエルとイランの代理戦場でもあり、「戦争」という大国の殺人ビジネスに巣食う数々の過激派組織の温床でもあるのです。そして、何の罪もない人々が、子どもや女性やお年寄りなどの弱い人々が、毎日のように殺され続けているのです。

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